木曽駒植生調査2019【2,925m】
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「コマクサ」…ケシ科ケマンソウ亜科コマクサ属、高山植物の女王
・・・知っているそんなことは。
でも、この夏見た花は、今まで見た中でも、秀逸の「美しい」姿だった。
荒涼とした礫地帯、不安定な土壌をあえて生存の場とし、他の競合植物との差別化を図る生存戦略を取る。
高さはたったの5cmほどだが、根っこは50〜100cmもあるという。
・・・知っていた、そのことも。
今回の美しく感じる理由は、水滴。
台風が近づいて、先日は大荒れで、木曽駒での主目的である植生調査が出来ず、山荘で沈殿していた。 翌朝、調査地に向かう途中で、見たのがこの写真。
パセリのような葉っぱに細かい繊毛があり、水滴を流さず捉えて水分を確保する機能が備わっている。葉っぱも花にも水滴が一杯。
嵐に耐えてた後のその姿は、実に美しく。美しい!
この植生調査は、東邦大学の下野綾子先生の下、所属するNPO法人山の自然学クラブの有志により2008年から定点観測を実施している。高山帯の植生調査を継続している貴重な研究。
2019年にはJournal of Gerographyにも「中央アルプス駒ケ岳10年間の植生変化の動向」という論文として成果を発表された。
温暖化、積雪量、乾燥、霜害など多様な環境変化と高山の植物との関係を調査している。植物の種類に大きな変化はないが、出現率が増加傾向にあるようだ。
個人的には、2017年から3年連続で参加しているが、たったの3年間でっもハイマツの伸長など確かに素人目にも変化が見て取れる。
ちなみに、今回の最高通過地点は中岳の2,925m。ピークハントが目的ではないですと、先生に3年間言われづづけていて、この調査で最高峰の駒ケ岳に行ったことはない。
「ハイマツ」…マツ科マツ属、氷期に日本に南下してきて、温暖化の進行とともに高山に取り残された氷河遺存種。
風下の風衝地帯である程度の積雪があるところに育ち、ハイマツの高さが積雪の深さとほぼ同じになるという!?
冬の厳寒を避けるために、相対的に温かい雪の中に潜るという、潜れる場所を選択しているということ。
そうおもって、調査の合間に腰を伸ばして、周辺のハイマツ環境を眺めると…なるほどなるほど、気象と地形とハイマツとの関係が鳥瞰できる。
面白い。
年間3〜6cm伸長する。ここ3年しか参加していない私でも分かるはずだ。
少しでも生存に有利な環境を求めて、伏条更新と枯死を繰り返しながら一生の間に100メートル近くも位置を移動することがあると言われている
なぜ、そんな移動をする? まだまだ、謎が多い。
往路に通過時は雲の中だった千畳敷カールも、帰りには天気が回復して、たくさんの登山や観光客であふれていた。
雪渓の溶けた後に咲く黄色い豪華なシナノキンバイが爛漫、
大きな花弁に見えるのは実は萼片で、虫に目立つ為に大きく見せている。
カール底にはコバイケイソウ、6〜7年周期で花を咲かせるようで、今年は当たり年らしい。壮観な眺め!
これも、花は真ん中に垂直に立っているやつだけが実際の花で、左右の白い房は飾り。これまた、虫から見て目立つための植物の工夫だ。
「きれいだ」「きれいねぇ」と感嘆の声が聞こえる中、植物達は「人=観光客や登山客」の為でなく…
自身の生存戦略として、高山においては短い花期にいかに受精して種子を作りばら撒くことを目的として虫の為に咲き誇っている、たまたま人にも綺麗に見える花だけを鑑賞している。
この花園は「人の為」でなく、「植物自身の為」の楽園であることを忘れずに・・・と思いながらロープウエイで山を後にした。
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