船越ノ頭【2,612m】

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山の自然学クラブ主催の信州講座に今年も参加。巡検の舞台は白馬山域
2019年8月24日(土)〜26日(月)までの山歩き。 これでもかってぐらい、今年も楽しく勉強できた。 
場所は白馬山域の北側、地形的に白馬はたいへん面白い場所で、特にこの辺りには興味深いエリアらしい。 
リードは、このクラブの会員の北原先生、このエリアの地形や地質にお詳しい。総勢14名。

因みに写真は、船越ノ頭から小蓮華山を望む壮大な風景
だが、ポイントは小蓮華山の山頂近くの稜線が2つに分かれて見える。これは二重山稜といって、山が重みでズレて出来る。大きな衝撃があると山体が崩壊する前兆。
とても興味深い地形だが、白馬エリアではよく見ることができる…そんなマニアックな世界(笑)の山行。 

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コースは、初日は栂池湿原に宿泊して、湿原散策と勉強会で歩く、
翌日は、標高差800m、栂池湿原<1850m>〜天狗原〜白馬大池〜船越ノ頭<2612m>へ。なぜこんな地形になったのか、どういう地質からなっているのか
などの勉強をさせていただきながら、ゆっくりと歩く。
3日目は、地図から外れて北へ向かい、雪倉山や朝日岳の地形を眺めながら下山、蓮華温泉で露天風呂を楽しむ。

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スタートは栂池湿原。2011年に妻とデートで散策して以来の再訪。
8月も終わりなので、もう夏の花は少ないが、アキノキリンソウやトリカブト、キヌガサソウなどまだまだ魅力一杯の花が咲いていた。
この広大な湿地は、東に位置する白馬乗鞍岳の火山活動に伴い生まれている。
直近では17万年前に活動があり、小蓮華〜白馬乗鞍岳までの斜面が山体崩壊を起こして、階段状の段差ができた。
その段差の一番大きな平面がこの栂池にあたるそうだ。
その平坦地に水が溜まり、ミズゴケが生育し、寒冷地が故に分解されずに枯れては溜まり…高層湿原となる。
広さは約100Haもある。周回コースは5.5km。広い。

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栂池湿原から天狗原へ登る。
地質は安山岩、火口から噴き出したマグマが地表で急速に冷えた火成岩。
火成岩とはマグマが噴出して冷えた岩石の事で、種類は3つ、残りは2つ…流動性が高いのが玄武岩(ハワイでだらだら流れてるやつ)、低いのが流紋岩(雲仙普賢岳の溶岩ドーム)。
天狗原そのものは、栂池湿原同様で、階段状の段差の平地にあたる。
写真の通り、上部の岩塊斜面から天狗原を眺めるとその平坦さがわかる。
標高を上げる毎に視野が広がり、そんな地球規模の歴史を眺めるが楽しい。

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天狗原を抜け、岩塊斜面や小雪渓を登りきると白馬乗鞍岳、最高点2456m。
直近の火山活動は17万年前、
想定外に平坦な山頂部、すでに森林限界を超えて、優占種はハイマツになっている。
高度もだいぶ上がってきた。 丸みを帯びた山頂部越しに、白馬の峰々が見える。
ハイマツと共に高山帯に入ってきた感でわくわく。

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マグマの形状は様々で
こんな風に楯上にスルスルと抜けて出てきて固まった形状のものもある。
先生曰く、「その典型例を近くで観察できる貴重な岩場」らしい。名前を重複岩脈!?という。


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白馬乗鞍をちょっと下ると白馬大池に到着。
白馬大池火山活動で出てきた堰止湖。火口湖ではない。(白馬大池火山と前述の乗鞍火山との関係は調査中)
特徴は、東側(写真右)が白馬乗鞍からの噴出物の安山岩でゴツゴツ、西側(写真左)は砂岩泥岩で雪解けで小規模な扇状地状になりなだらか。
雪解けや雨は雨裂を作り、砂や泥を伴って白馬大池に流れ込む。大池から川はない。
北アルプスでは北方5kmにある風吹大池について2番目の大きさ、水深4m。
万年雪解け水をたたえるので、冷たく魚は住めない。クロサンショウウオがいるらしい。
写真は船越ノ頭への途上、雷鳥坂から見た絵だが、湖というか池があると風景が絵になる。
地質や成り立ちが分かればさらに美しくなる。

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白馬大池から船越ノ頭へ向かう。
アルペン的な稜線を歩くのが、そのなだらかな山道が、なにやら懐かしく気持ちが良い。


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下山後、気が付いた。気持ちの良い理由が。
「坂の上の雲」という司馬遼太郎さんの著書が2009年〜11年の年末に大河ドラマ並みのお金と人材をかけて撮った三部作のドラマとなった。
そのエンディングに「Stand Alone」とう勇壮な音楽をバックに、この山道を“一打の雲を目指して歩む”映像の舞台が、まさにここだった。
いつか歩きたいなぁと思っていたその道をまさに歩いていた。


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船越ノ頭へ行く目的はピークハントではなく、稜線にでて東側(栂池湿原側)を眼下に見下ろすため。
ここが山体崩壊の跡か…
どどって山の斜面が崩壊して、さまざまの「地滑地形」
階段状平坦地、小丘、流山(地図▲)、
ぼこぼこって時々出ているのが流山、崩壊して一定の塊が途中で止まって小山に見える。
斜面で灰色っぽい処は岩がごろごろして樹木が侵入できない場所、薄緑が雪が長い期間あるので樹木が育たないエリア。
分かりにくいが、平坦地は栂池湿原、今朝の出発地。
こうやって観ると、山体崩壊が如何に大規模で凄いかが分かる。
昨日は下から眺め、今日は上から眺め。視点を変えて見えるのがまた良い。
何気なく見る山も、地球規模のダイナミックな躍動の中で生成された、
一つ一つの成り立ちにも興味深い事実がたくさんあるとこと教えてくれた、たいへん有意義な山歩きだった。

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蛇足 最後は蓮華温泉へ下る。
野趣あるれる露天風呂、
これも、北アルプルのマグマが水脈を温めて出来た自然の恵み。
蓮華温泉小屋から15分山道を歩く、一番上の薬師の湯に漬かる。
建物なんてなにもない。あるのは、温泉と硫黄と岩。
脱衣場はその辺の岩(笑)、でも、山々の稜線を眺めることができる最高の場所。

上機嫌。写真はメンバーのM氏に頂きました。感謝!

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