山之辺の道〜33期会2024
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「青丹(あおに)よし 奈良の都は 咲く花の 薫(にお)ふがごとく 今盛りなり」
小野老(おののおゆ)/3巻−321
小野老が赴任先の大宰府で奈良の華やかさを読んだ歌。「青丹(あおに)よし」は最上級の奈良の枕詞、「薫(にお)ふ」は、ただ香るだけではなく、「美しく色が照り映え、輝いている」という意味もある。(ますます恋する万葉集HP)
高校ワンゲルの仲間との年に一度の“邂逅”例会、今年は奈良盆地の東側の日本最古の道「山之辺の道」を歩く。
万葉の時代、奈良盆地は湿地帯で、人々は山の裾野を歩く・・・そんな古代の道。人々は多くの歌を残した。それが万葉集。
この山之辺の道は、うん十年前にワンゲル入部の年に歓迎例会として諸先輩と共にあるいた道。思い出は多い。
歩いた仲間は5名、某有名国立大学文学部で万葉集を卒論に選んだというB女史もいる。今回の先生の一人。
写真はB女史からいただいた万葉歌碑と三輪山。この道の雰囲気をよく表しているとても良い構図の写真なので許可を得て頂いた。
こんな自然豊かな里山沿いを歩きながら、点在する万葉歌を愛でながら、歩く。
「味酒(うまさけ) 三輪乃山 あおによし 奈良の山の 山の際(ま)に い隠(かく)るまでに 道の隈(くま) い積(つ)もるまで つばらにも 見つつ行(い)かむを しばしばも 見(み)放(さ)けむ山を 心なく 雲の 隠(かく)さふべしや」
三輪山をご神体とする大神神社を通り過ぎた処にある歌碑 情熱の歌人と呼ばれる「額田王(ぬかたのおおきみ)」が作者。
「うまさけ」は三輪の枕詞、天智6年(西暦667年)都を明日香から近江に移す時に詠んだ。見え隠れする三輪山を眺め、懐かしみながら読んだらしい。
そんな背景を理解しながら歌碑と風景を眺めれば、見える景色も味わい深い。
我々も若き頃に眺めて、変わらぬお姿でいるお山の山裾を歩く。
玄賓庵を過ぎ、小さな谷沿いに歌碑があった。ちょっとした暗がり、注意深くみないと見逃しそうな場所。
「山吹の立ち儀(よそ)ひたる 山清水 酌みに行かめど 道の知らなく」 2巻−158
額田王の娘である十市皇女(とおちのひめみこ)が亡くなったことを兄の高市皇子が詠んだ。
意味は、「山吹の花が美しく飾っている山の泉を酌みに行って蘇(よみがえ)らせたいと思うのだが、道を知らぬことよ。」という意味らしい。
山吹の泉とは黄泉の国を暗示しているという説もある。山吹の黄色と黄泉につながるのか・・・
当時はまだまだ科学が進歩していないので、死生観など現在とは全く違う。
でもこの谷の向こうに清水を彷彿とさせる、そんなことを感じさせる歌。
桧原神社をすぎ巻向、三輪山の北に位置する巻向山の麓にある歌詞。
「巻向の山辺とよみて行く水の水沫(みずあわ)のごとし世人(よひと)われは」7巻−1269
作者は古典でもならった有名な歌人、柿本人麻呂!
意味は、「巻向の山辺を響かせて流れ行く川の泡のようなものだ。命ある身のわれわれは」となる。
どんな心情で詠んだか・・・人の一生の儚さか!?
いつの時代にもあるこの哲学的な命題に考えさせられる。
「ぬばたまの 夜さり来れば巻向の 川音高しも 嵐かも疾き」7巻−1101
これも柿本人麻呂の歌。妻がこの辺りに住んでいたらしい。
当時は通い婚が普通で、きっとこの夜は妻の家にいた。
昼が終わり漆黒の闇に包まれる夜・・・近くを流れる巻向川の音がゴーゴーと聞こえるという現象の歌にもとれるが
きっともっと深い意味を持たせている。
ネットで調べてもいろいろな解釈もあり、実に楽しい。
仲間に某有名国立大学農学部のМ氏が「ぬばたまとは単子葉類のヒオウギの事で、2分の1葉序という特徴がある・・・」と植物の説明を聞ける。
アカデミックな山歩きでうれしい。
里山を巻きながら、歌碑を読みながら、高校時代の話に花が咲く。
大昔歩いたこの道にも変わらず万葉歌碑があったはず。確かにあったはず。
でも高校生には歌の意味はわかっても、試験の為の知識以上でも以下でもなく、単なる言葉の羅列にすぎなかった。
うん十年たって、人生のなんたるかが分かり始めると、これらの歌の意味が自分なりに分かってくる。
1000年以上前に詠まれたはずなので、まさに今そこで詠まれたかのような臨場感があるのが不思議。
これが年齢を重ねるという事か。
長岳寺という思い出の寺。こんな立派なお寺だっけかね〜なんてお互いにつぶやく。
最後に、新入生歓迎会で集合写真を撮った門前の階段で、うん十年ぶりに同じ場所に立ち・・・5人で写真に納まる。
それぞれの思いで高校生に戻った瞬間だったに違いない。
植物学教授М氏と春日大社の万葉植物園を歩く、万葉集と植物の勉強はまだまだ続く・・・
2024年5月12日[歩き] 5月23日[記]
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