■私版「山がくれた百のよろこび」7■
心奪われた夏
先日、戸棚を整理していたら、高校時代の「山歩きノート」が出てきた。
昭和53年(1978年)4月の歓迎例会から毎月の山行、夏の合宿のこととなど、日程やコースや時間と感想が律儀に記録してある。
読んでいるとなにだか懐かしくて…稚拙な文章や、今と変わらぬ筆跡に笑い、懐かしい友人とのエピソードなど、楽しく読みふける。
最初の夏合宿は1978年8月、乗鞍岳、初の三千メートル峰だ。
大感動したことがメモられている。
行く途中で酔った事、位ヶ原山荘への移動中に帽子を飛ばされた事、などいろいろ懐かしいことが書いてあった。
兎に角、そこからの「景色は最高で、上は雪渓から下は乗鞍高原まで全貌できた」そうだ。
歩いたコースはウル憶えだったが、
位ヶ原山荘(2350m)から肩ノ小屋経由で剣ヶ峰(3026m)へ、そこから高天原(2829m)にて昼食をして、長い県境尾根を歩き、野麦の集落(1300m)まで下るコースのようだ。
今、読み返してもなかなか良さそうなコース、当時から乗鞍スカイラインはあったので、それを避けた静かな道を選んだのだろうか。
今、この高天原のコースは自然保護を理由に通れないそうだ。貴重な体験だった。
「高天ヶ原には高山植物がたくさんあって、ひじょうにみとれていた。
特に目にとまったが、チシマギキョウでからは小さいのに、大きな美しい花をつかると感動していた」ともある。
きっと
当時は花の名前や素性などほとんど知る由もなかったから、その純粋な美しさにのみ感動したいたに違いない。
メモにはないが、山頂から上を見た時の空の濃い青さをよく覚えている。
宇宙に近づいていることを実感したのだ。
脳裏に焼き付いているのは、
ぼろい初めて景観した位ヶ原の山荘の雰囲気、山頂までの砂礫、深い谷、山頂の祠とどこまでも続く碧い空だけだ。
今なら、今なら、もっと記憶に残る山行ができるのだが。
古い当時の数少ない写真を引っ張り出した。なんだか、とっても楽しそうではないか!
あの山へ登って、下ってここまで来たんだという充実感に満ち溢れている。
兎に角、一緒に行った同期の仲間たちと、嬉しそうに映っている。
仲間と(きっと)ぶつぶつ文句を言いながら、苦楽を共にした山。
山岳地帯の大展望、可憐な高山植物の美しさに感動し、今でも脳裏に残るほどの空の青さに感嘆した山。
遙か35年前の夏、それは、山歩きに「心を奪われた夏」だった。
2013年7月13日〈記〉
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