冬の上高地 研究会〜上高地クラブ
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12月中旬 冬の上高地 「山のひだや」ベースで研究会
寒い・・・最低気温ー15度 最高気温ー1度・・・一晩で10cmは雪が降り積もった。
宿には・・・電気なし、ガスなし、水道なし、夜は薪ストーブとランプの下で食事をいただく・・・こんな環境での生活は高校ワンゲル時代の奈良 明神岳のあしび山荘 以来。
冬の上高地の宿はここだけ。釜トンネルから徒歩で雪道を数時間歩く必要があり、危ないのでガイド同伴でないと泊まれない。それもある程度の人数が必要という。なかなか稀有な機会だった。
暖かい食事と寝床があるのが有難い、寝る前には「あんか」をいただき、足に挟めば幸せに寝ることが出来る。この地ではこれで十分だろう。
研究の主な目的は、原山先生のご指導の下、ケショウヤナギの定点観測。梓川上流の中州にある。夏は川の流れに阻まれていけない。
スノーシューを装着して、梓川へ・・・といっても雪の平原と化した河原を歩く。運よく、この時だけ青空を覗かせてくらた。
宿の女将いわく「ここ数年は上高地もべた雪が多くて、パウダースノーは久しぶり」という言葉通り、雪がさらさらしていて、とても気持ち良い。手ですくって握っても団子は出来ない。
さくさくと雪原を進む。
上高地にはケショウヤナギが多くある。梓川 雪原(とあえて呼ぼう)の上流に見える林がケショウヤナギ林。
江戸時代 松本藩はこの奥地まで入り込み樹木を伐採して木材として下流へ運んだ。
荒廃した河川には、冷温と礫質の河原を好むこのヤナギが優勢になった。今では立派な林を形成している。
ケショウヤナギ:ヤナギ目ヤナギ科 春先に白い粉がふくらしく、それで化粧したヤナギということでらしい。牧野富太郎先生が命名。
小枝は繊細で赤くなる。真っ白い雪に赤く染まった枝ぶりも美しく、これも化粧柳という名前の理由だろう。
確かに遠目に見える林も赤っぽく見える。
古木が一本残っている。これが研究対象の大きなケショウヤナギ。何百年も生きている。
ケショウヤナギは氾濫域に自生するので、長寿になるのは難しい。
この巨木は元気そうだ。周りに若木はない孤高のヤナギ(私は初対面、その面構えに感動した)
この樹種は上高地と北海道の日高地方に隔離分布している。
萌芽などによる栄養繁殖では増えなくて、実生で増えるらしい。
6月下旬、毛の付いた種子は風によって散布。種子は、水分条件がよければ一日で発芽し、砂礫堆に、優占度の高い一斉林を形成する。(森林整備・研究機構)
おそらく、寒冷地を好む樹木は、2万年前の氷河期が終わってから自生範囲が狭まっており、遠い将来は温暖化とととも絶滅するかもしれない。
さて、この古木はなぜ生き残ったのか?
夏は中州にあり、他の樹木が近づけなかったのか? 他のケショウヤナギとなぜ林を形成していないのか?
そんな命題をこころに刻みながら、この古老のヤナギを見上げる。
ひだやで過ごす時間が多かった。
暖炉の火の番、煙に燻されながら、先生や女将、仲間との団欒がとても良い。
・住むには断層と地盤の脆弱性について良く調査すべし・・・将来の移住を想定、真剣に聞いた
・暖炉の火は見つめちゃうね、本能だろうか・・・(みんな)きっとそうだね
・温暖化で雪の量も減った、昔は2m近くあった・・・このこの地も温暖化の波か
・季節も早くなった、2月が厳冬期だったが、今は1月中旬ぐらいまで・・・実に興味深い
・ニリンソウも6月から5月中旬に・・・地球の季節も着実に変わっている
・サルがこの10年ほどで増えた、冬は養殖用のイワナを食べるので対策がたいへん・・・サルの話題で盛り上がる
・外気温と室内の15度差以上をつけるとガラスが割れるから注意ね・・・火の番として肝に銘じる
・夏季はインバウンド客が増えてきて、夏になぜエアコンがないと聞かれて困るのよねえ・・・文化の違いを感じる、これも時代か
・星空を撮りにくる人がいる、明神橋の向こう側は開けていて星が綺麗なんだな
・この写真はその人の写真、これがアンドロメダ、これが・・・今晩も雲間から星が覗く
そんな談笑しながら長い時間飽きることなく会話する。季節の移ろいと過ごす生活、動植物など自然の話・・・政治や経済、テレビやSNSでの話題は全くない
朝食は朝7時、夕食は夜18時、日が暮れるとランプの下で語らい、朝日とともに起きる・・・
たまたまスマホも利用不能となった。メールや電話に追われることもない。
ふと、情報が溢れ溺れる世界と隔離された“この時間”が、“豊かな時間"であることに気が付く。
電気もガスも水道も情報ない世界、夏の喧騒がうそのような静かな世界、そんな上高地を体感できた。
明日から気ぜわしい世界へ戻るんだなあと思いながら、あんかで暖められた布団にもぐり込んだ。
2024年12月13−15日[滞在] 12月22日[記]
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