初秋 上高地を学ぶ〜上高地クラブ

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初秋 美しい上高地の朝
気温は10度、少し肌寒いが、風はない
昼の喧騒がうそのような静かな朝
聞こえるのは、梓川のせせらぎ 山体崩壊で川幅が狭く、流れが変わる場所だからだろう、流れは速い
穂岳の吊り尾根が雲に見え隠れ、岳沢の黄葉が美しい

穂高の向こう涸沢は、今年は紅葉のあたり年、11年振りだそうだ
あの紅葉を見る為に訪れたことがある
ここから3時間を梓川上流へ歩き、更に3時間山道を歩いた先にその別天地はある
この上高地にもまもなく紅葉前線が下りてくる
黄金色に染まるカラマツ、レモン色のシラカンバ、深紅のナナカマドを想像する
暑くなく、そう寒くもなく、そぞろ散策にはとても良い季節
雪虫もフワフワと、正式名称はトドノネオオワタムシ、冬の使者、初雪も近い
そんな初秋の上高地

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樹種同定
左岸を眺める 六百山から霞沢岳の稜線がまた素敵だ
上高地クラブの主宰である大森さんから
樹形と黄葉から樹木種類の判定ができないかとの話題になる

石井先生曰く、新緑の緑は特徴的なのである程度の判別は出来るが、秋は難しいね
見えてる山々は森林限界から上にあるので、上部岩稜地帯の緑はマツ科ハイマツ・・・
黄色はカバノキ科のシラカンバかダケカンバ、山が急峻だから“岳ダケ”カンバだろう
中腹から麓までの緑は針葉樹だが、枝が水平や上向きはマツ科モミ、下向きはヒノキ属だろう
川べりに目立つ1本はモミ、この標高ならウラジロモミか

樹木もそのぞれの長い歴史の過程で適地を選び生存戦略を考える
落葉樹は秋になると色づき、冬への準備を始める・・・それもまた生存戦略
絶景の中で、そんなことに思考をめぐらすにはもってこいの季節・・・上高地の初秋

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一枚の葉っぱ
葉っぱの形は多種多様、観察会の始まりは足元の葉を拾って会話が始まる
白いのはウワミズザクラの葉っぱ黄葉が終わり色が抜けている
驚いたことに表面は驚くほどの“すべすべ”、先端は尖っている
いずれも雨水による衝撃を緩和して、早く流す工夫がされている
裏側は“ざらざら”している、二酸化炭素の取り入口である気孔などいくつかの機能があるから
これに限らず葉は、先端が尖っているものが多いが、先端から成長して横に広がっていくらしい
鋸歯と呼ばれる縁の“ぎざぎざ”は、空気の流れを作って、気孔に新鮮なく空気を送り込む工夫だとも聞いたことがある
枝も表は赤く、実は裏は白い
深まりつつある秋、一枚の葉に思考を巡らす

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旅路の果て
落葉を人生の終盤と例えることがある
紅葉は旅路の果て・・・とも
群を抜いた紅葉があった カエデ科コハウチワカエデ

先生曰く、葉っぱは葉緑素があるので緑、8〜9℃に寒くなると光合成の効率が悪くなり緑が抜けて、本来の色の水分を含んだ細胞の色 黄色となる
光合成で糖分が出来る過ぎると赤色に、そして落葉して水分がなくなると褐色になる
・・・実はもっと詳しく教えてもらったのだが、要約するとこんなところか
太陽光の光量と比例して、上部から紅、黄色、最下部は緑と3段に色が変わる
科学的にはそう、ただ、その色彩のグラデーションは人の心を打つ

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枯れゆく樹木
河童橋から下流、右岸は素敵な散策道が整備されている
ただ、山からの湧水が梓川へ流れるのを阻害しているのか、ところどころに湿地帯が出来ている
水は滞留してニレ科ハルニレやカバノキ科シラカンバなどが枯れていく
根が呼吸できなくなるらしい
代わりに、呼吸が出来て水辺を好むヤナギやハンノキは元気になる
焼岳の噴火で出来た大正池は、林立する枯木が上高地の代表的な風景となっているが、数が少なくなった
自然現象が故に枯木になるもの、人の手で枯れ木になるもの・・・
なにげに風情があると眺める枯木の景観にもそれぞれに理由がある

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ケショウヤナギは
上高地で一番有名なヤナギ、川の氾濫地に自生することを選んだ 
河童橋から梓川沿いに見える木の多くはこの樹木
厳冬期には観察調査会で上流に行き、中州にある赤く染まった枝ぶりの林や大きな個体に感動した
今回も数ある柳種の中でも、小さくて細長い葉っぱ、先生のお陰で同定が出来るようになった

河童橋周辺にもたくさんあるが、枯れていたり弱っている巨木が目につく
大観光地であるこの辺りは、土手を固め、川の氾濫から建物や橋を守るために固定されてしまった
川辺から離れてしまった個体は、乾燥か日当たりか? 
水辺を好むヤナギは、いずれは、枯れてしまうのだろ
ここでも、川の氾濫で自然淘汰されることもあるし、人の手で枯れていいくものもあり・・・
自然淘汰と観光地と自然保護という話題で皆さんと会話する
正しい答えはない。歴史が自然史が答えを出してくれるだろう

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倒木更新
巨木もいつかは倒れる
山が崩れる、川が氾濫する、雷に打たれる、病気に罹る、雷に打たれる、理由は多くある
だだ、そこには太陽が降り注ぎ、雨に打たれ、樹木が腐り、菌類が繁殖し、コケが生え、種子が落ちれば芽を出して、再び成長を始める
クジラが死んで深海に沈むと「鯨骨生物群集(げいこつせいぶつぐんしゅう)」という独特に生態系ができるように、小さな生態系がここにもある

先生からは、約30年前からの倒木の定点観察の写真もみせていただく
このクラブでは勉強になることは多い、知らないことを知ると更に知らない領域が増える、そんなスパイラルが楽しい
植物の生き様を学ぶと、人の時間、樹木の時間、生命とはなにかを考える良い機会となる

〜〜〜〜〜〜〜晴天の上高地10月13日15:00頃 Мさんご提供〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

上高地には圧倒的や山容、自然の壮観な風景、美しい風景がある、そして厳しい自然環境にあるからこそ学べることがまだまだあるなあ
さすが文化財保護法における特別名勝・特別天然記念物

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早朝、10月13日6:30頃 朝飯前に一人抜け出し、焼岳〜穂高〜梓川をぼ〜〜〜と眺める 至福の時間

2025年10月12−13日[滞在] 10月18日[記]

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