神社と樹木
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近所に山坂神社という神社があった。
子供の頃は、宗教施設というより、単なる遊び場。
公園も併設していて、鉄棒やブランコ、ちょっとした広場もある。
神社というのは鎮守も森にもなっていて、うっそうとした場所もあるものだ。
この神社も例外ではなく、一番大きな樹木が「クスノキ」だった。
クスノキ目クスノキ科の常緑高木、長寿。
ここのクスノキも例外でなく、高木で枝ぶりがごついので、子供ながらに見ても威厳に満ちていた。
樹齢は不明だが、200〜300年は経つだろう。
竹馬の友が、切れ落ちた太い枝を指さして「あれはトリケラトプスがやった切り口だ」と自慢げに話していて、「そうか古いだ〜」と感心してた。
トリケラトプスは6600万年以上前(白亜紀後期)の恐竜、現在のクスノキにそんな樹齢のものはなく、長くても1000年レベル。
当時の小学生の時間間隔ではそんなことはどうでもよかったわけで・・・
大人になって物の道理がわかってくると、神社とご神木なる樹木に興味が湧いてくる。
神社の御神木になることが多い。
本州の大クスで有名なのが、熱海の「来宮(きのみや)の森」に宿る「大楠」。
平安初期の征夷大将軍坂上田村麻呂公は戦の勝利を神前で祈願し、各地に御分霊を祀ったとも伝えられる古いお社。
一番有名なのが大楠、樹齢2000年超(自称!?)「神の御魂に降り願う木」(来宮神社リーフレット)。
幹回りは23.9m、樹高は26m、国指定天然記念物。
圧倒的な存在感は一見の価値・・・祈りを捧げたくなる荘厳な雰囲気を醸し出す。
クスノキをご神木とする神社は多い。
常緑樹では永遠を、長寿で巨木になることで人智を超えた存在となりやすいに違いない。
クスノキの巨木では、鹿児島 蒲生や福岡 本庄の大楠があるが、まだ拝んだことはない。
貴船神社の「桂(カツラ)」
京都市の北山にある古刹、水源の地、水の神様。
カツラ:ユキノシタ目カツラ科カツラ属。白亜紀から生き残る原始的な樹木。
北海道から九州の冷温帯に自生。山地の谷沿いにやや普通。個体数は多くない。
水の神様にふさわしい。
本宮と中宮、奥宮と三社詣あるが、三社ともにご神木として鎮座されている。
本宮は樹齢400年、すっくと立ち、「御神気が龍の如く大地から勢い良く立ち上っている」ようなお姿。
ひこばえる姿が運気が立ち上るという表現に相応しい。
本殿前1本目のカツラは浄化の力、結社の2本目は縁結び、奥宮の3本目は気を高めると言われている。
川床で有名な貴船川沿いは涼し気で、その冷気が一層の身を引き締める。
命主社(イノチヌシヤシロ)の「ムクノキ」
大国主の命を助けた神皇産霊神(かみむすびのかみ)が祀られている。
出雲大社のすぐ東にひっそりと鎮座されている。
ムクノキはバラ目アサ科ムクノキ属、落葉高木、関東以西の暖温帯に自生。
クスノキ同様、巨木になると迫力満点で、神が宿る木にふさわしい。
ムクノキは成長に伴い網目状に割れ目が入り、板根が発達する。
古木になると皮が大きく反って剥がれてきたり、樹洞が現れ、独特の形状の主幹が一層の神々しい雰囲気を醸し出す。
出雲大社とも関係があるお社で、早朝に訪れたので、見ているだけですがすがしい気持ちになった。
樹齢は1000年と推定されていて、出雲市指定天然記念物。
出雲の隠れパワースポット。
男鹿半島 真山神社「カヤ」
男鹿半島の古刹、平安時代の円仁慈覚大師によるお手植えで1100年超のご神木。
カヤはマツ目イチイ科カヤ属、常緑高木、雌雄異株。成長は遅く、高木になる。
東北地方から九州の温帯に自生するが、多雪地帯に群落する(樹木の葉)。イヌガヤとの違いは葉先が尖っていたい。
確かに風格がある。この大きなになるまでは1000年必要かもしれない。雌株なので緑の実がなっていた。
「お山には約千種の植物があり、鳥類なども多く見られ、貴重な地質などを含め自然の博物館」(神社HP)
ご神木が「カヤ」というのは初めて見たが、この秋田の地でも常緑樹が選ばれる。
秋田県の天然記念物。
浅間本宮大社と「オガタマノキ」
「オガタマノキ」は、神道思想の「招霊」(おぎたま)から転化した。
天岩戸に天照大神がお隠れになった際に天鈿女命(アマノウズメ)がこの木の枝を手に躍った。
浅間本宮神社のご神木は桜だが、オガタマノキは神社とは深い関係にあるため、神木となることがある。
樹木は、モクレン科モクレン属で唯一の常緑樹、千葉以西の太平洋側の暖温帯から沖縄・台湾までの亜熱帯に自生する。
実がなっているが、神社の鈴の形はここからきているらしい。
そんなわけで、暖かいエリアの神社にご神木として植えられることが多い。
そういえば、九州小倉の神社でも愛知の蒲郡竹島でも見た。
一円玉の表の木はオガタマノキをデフォルメしたのではという話もある。
石清水八幡宮と「ナギ」、初詣で本殿を眺めると右にスギ、左にナギ。
ナギ:マキ科ナギ属、伊豆半島・紀伊半島、山口、四国、九州の、沖縄の暖温帯に自生。
初めて見た!
なにより特徴は、針葉樹であること、葉っぱは広葉樹に似るが主脈はなく細い葉脈が平行に走る、それも対生。
進化過程ではきっと古い。
春日大社には1000年超えの巨木があり、国指定天然記念物。
葉の形がミズアオイ科の水生植物、コナギに似ているとして命名(植木ペディア)されるが、
ナギが「凪ぎ」に通じて、開運の安全や受験の合格、波立たないという意味で夫婦円満・・・
熊野権現と関係が深く、熊野神社のご神木らしい。家紋にもなっている。
熊野とのかかわりは興味深いので、もっと勉強したい。
半木神社(ながらき)と「カゴノキ」
京都府立植物園の中にある神社、奈良時代(たぶん)洪水が多かったこのエリアの流木(ながれき)で作った鎮守の社です。
神社周辺は「ながらぎの杜」として園内唯一の自然林が豊かな場所。
その森の中に、このカゴノキがある。
カゴノキ:クスノキ科ハマビワ属、暖温帯に自生、西日本に多い。常緑高木。
なんといっても特徴は、この樹皮…白と緑褐色が混じる縞模様。カゴノキは鹿の子(かのこ)の模様に似ていることが由来。
神社には、「火護(かご)の木」という音から「社殿を火から護る」という縁起担ぎで植えられるという説もある。
クスノキ科なので長寿で成長スピードも速い。
大神神社の「巳の神杉(みのかみすぎ)」
スギ:ヒノキ科スギ属、高木、本州から九州の中間温帯に自生または野生化。
社寺植栽に普通
奈良の三輪山をご神体とする大神神社の拝殿前にある。
三輪山は万葉の時代に奈良の都の中心にあった。
ご祭神である大物主大神(おおものぬしのおおかみ)の化身とされる白蛇が棲むことから名付けられたご神木、
今は二代目、樹齢500年。
今でも白蛇が住むといわれている。
やはり、神社とスギは関係が深く、常緑ですっくと伸びるその姿は神の依り代になりえるのだろう。
白蛇との故事とも結びついてご神木となっている。
毎月1日に朔日詣り(ついたちまいり)とよばれ、神様のご加護に感謝する日があり、杉が授与(有料)される。
伊勢神宮、正式名称は「神宮」
宮域林と呼ばれる神宮の森は、内宮のほとりを流れる五十鈴川の上流に位置し、約5500ヘクタールある。一般的には「神宮林」と呼ばれる。
有名な式年遷宮には大量の檜、それも樹齢200年レベルの調達が必要で、200年計画で自給を計画している。
神社仏閣には建築材として、檜が使われる。白く美しい材、独特の光沢と芳香、強靭な耐久性、耐水性。
参道には多くの巨木があるが、樹齢数百年の「スギ」巨木が目立つ。幹回りはもちろんだが、高さが圧倒的。
神様が天界から地上へ舞い降りる際にまっすぐに伸びた杉の木を使ってやってくるということが古来より言われているらしい。
神宮林は1000年以上保護されているだろうから立派な管理されてすっくと伸びた巨木が多いはず。
今までも、信州 戸隠奥社、越前 白山平泉寺など 杉並木などは巨木になるとみるものを圧倒する。日光も一度は見てみたい。
その中でも神宮は別格で、美しいお宮とスギをはじめとする巨木の参道は一見の価値がある。「一生に一度は伊勢参り」
ちなみに伊勢神宮にご神木はない、森にあるすべての樹木に神が宿るそうだ。
ご神木は、神の依り代とされ、しめ縄などで特別扱いされている。社殿の無い神域などでは御神体として扱われている。
伊勢神宮の神宮スギなど景観維持や、荘厳さを醸し出すために依り代とは別に特別視された木などを神木扱いにしている場合もある。
神社神道における儀式で使われ、サカキやナギによって作られる御幣も神籬というが、もともとは、古神道における自然にある神木の代用としての、簡易の依り代である。(By Wikipedea)
いずれも常緑で巨木や高木になる・・・人智の及ばぬ姿に自然への畏怖や崇拝の念が起こるのは、実物を目の当たりにするとそう思う。
2023年10月8日[記] 2024年10月4日[真山神社 追記]
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