伊吹山とは!?

空と雲と山歩き>森歩き>伊吹山とは!?

画像

澄んだ青空の下、植生の乏しいガレ場を歩く登山風景
どこの高山だろう!? 

画像


…岐阜と滋賀の県境に独立峰然としてある「伊吹山」!
新幹線で大阪へ向かう途中、濃尾平野にある岐阜羽島駅を超えして、ばらくすると右側に、聳え立っている。
標高は1,377m、高さの割にはなかなかの山容。
伊勢湾から若狭湾につながる柳ヶ瀬−養老活断層系にあり、新幹線が走る南側から見るので「聳え立つ」ように見える。
日本海側にも近く、暖流の上空を通過して、湿気を含んだ冬の季節風が、若狭湾からこの山にぶち当たり、豪雪をもたらす。
1927年(昭和2年)、11.82mの積雪を記録した。世界一の積雪記録を持つ。
このお山を通り抜けた季節風は、関ヶ原(標高が低い)を通って濃尾平野に流れ込む、いわゆる「伊吹おろし」の由縁でもある。

画像


そんなわけで、山歩き欲を掻き立てられる山となる。
標高は1,377mだが、麓の登山口から約1,000mを超える標高差を歩く、なかなかの登山となる。
地質的にも興味深く、中腹から山頂エリアは「石灰岩」に覆われている。青いエリア。
石灰岩も玄武岩もチャートも付加体で3億年前に太平洋プレートにのってやって来て、大陸にぶつかり付加体となり、その後に造山活動で隆起してこの山容となっている。
この石灰岩はもともと海底火山で出来た島があってその周りのサンゴ礁が石灰となったらしい。

かように、日本海側気候の影響によ豪雪、そして崩れ溶けやすい石灰岩質が故に、大きな樹木が育ちにくいが、草木類を中心に個性的な植生となる。
この植物群を「伊吹山頂草原植物群落」と呼ばれ、代表的高山植物帯、特殊岩石地植物群落、著しい植物分布の限界地であることなどにより、山頂部は「山地草原」として国の天然記念物に指定されている。(Wikipedea)
登山者には人気の山だが、登山道とは違うルートでドライブウエイも9号目まで整備され、山頂部は観光地化されている。

画像


伊吹山の植物相は豊かで、高尾山について南の藤原岳と同レベルらしい。草木だけで約1300種類。
暖温帯にあるアベマキ、コナラなどから冷温帯のブナ、石灰岩質の山頂部は草原となっており、高山植物や日本海要素の植物などバリエーションに富む。
山を歩いても、ドライブウエイで走っても、景観はいうまでもなく、植生や地形地質を眺めているだけで楽しい。
-------------------------------------------------

ここからはマニアックの記録として・・・(笑)

画像


「ハゼノキ」ウルシ科、落葉高木
標高330m辺りの開けて明るい場所に、他の樹木に邪魔されることなく綺麗な樹形で太陽の光を一杯浴びている。
奇数羽状複葉が特徴、日本固有種は「ヤマハゼ」と呼ばれるが、これは中国由来のハゼノキかな? 
秋の紅葉が美しい。

画像


「マタタビ」マタタビ科、落葉つる性植物
標高440m辺り、樹木に絡みつき、開けた側に垂下って、太陽光を獲得する。
花期は6月〜7月、白い花を咲かせて、花の近くの葉っぱも白に変色する! こうやって虫にアピールするというとても変わった戦略を持っている。
初夏、低山の林縁にあるのでとても目立つ。
ネコ大好きなマタタビだが、この匂い(ネペタラクトール)を体に付けると蚊の忌避効果があることが岩手大学の研究で分かってきた。(2021年)
もしかしたら、将来 この成分から虫よけ薬が発明されるかも。植物由来から来る薬はたくさんある。

画像


「クマシデ」カバノキ科、落葉高木
570m辺り、日当たりの良い谷沿いにある。まだまだ低山の域だが、この樹木は山でしか見れない印象がある。
独特の鋸歯と葉脈の多さ・・・何と言っても、6月頃のこの鈴なりの果実が特徴的。
ミノムシみたい。ホップみたいとも言う。 

画像

画像


「ウリハダカエデ」カエデ科、落葉高木
若木は幹がウリの膚のように緑の縞模様があるのでそう呼ばれる。
上平寺の登山ルートの己高山を超えて稜線沿いの開けた場所に群生していた。
こんなに群生しているのは初めて見た。
開けた斜面でぐんぐん成長するらしいので、カエデ科のフロンティア植物なのだろうか?
葉っぱが大きいのもそう思わせる。
カエデ科なので、秋の紅葉は美しい。

画像


「シナノキ」アオイ科、落葉高木
この木も上平寺ルートの標高800m辺りに大きく構えていた。展望の開けた尾根道で伊吹山が見えたので、ほれぼれと眺めていたら気が付いた。
ハート形の葉っぱが特徴的、6月〜7月にレモン色の花が咲く。
北海道に多いらしいが、日本全国にあるよう。松本城の前の並木がこの木だった印象が強いので、てっきり冷温帯の樹木かと思っていた。
「信濃の国」の語源説もある。 

画像

画像


「シロモジ」クスノキ科、落葉低木
幹に黒い文字のような斑点がある「クロモジ」に対して、白い斑点があるので「シロモジ」。
本州中南部から九州の山地に自生して、群落する傾向があり、山間を占拠しているケースもある(樹木ペディア)。
この尾根も結構な群落だった。鈴鹿の国見岳でも谷沿いで見かけた。
日当たりがよければ紅葉する。黄葉した見たことないが・・・。
なんといっても3裂する葉っぱの形が特徴的で、黄葉も美しいいので庭木にもなるらしい。

カエデ科はたくさんあった、ハウチワカエデやテツカエデ、稜線沿いは秋は本当に美しいだろう。
「オオイタヤメイゲツ林」が植生表にあるが、これは見たことがない。
6〜8合目にあるらしいが、大きな葉っぱで葉先を繋ぐと丸くなるという。なんとも風流な名前、いつか見てみたい。

画像


「マユミ」クスノキ科、落葉低木
山頂駐車場付近にあった、標高だと1,000mを超えている。
沖縄を除く日本全国に分布するが、この森の林縁で見かける。5月が開花時期だが、標高が高いせいだろう6月に花があった。
個性的な果実(ピンクのサイコロみたいな)と秋の紅葉が美しいので、盆栽や庭木に好まれる。

たくさんの樹木を見てきたが、なにげに選んだ樹木はすべて「科」が違う。いかに植生が多様であるかがここからも分かる。
ああ、楽しい 伊吹山山歩きライフ!

画像

画像


800mくらいまでくると、伊吹山の山頂も迫って来る。
樹木の間からの画像は、上平寺ルートの己高山を超えた辺り、伊吹山が突然見えて感動する場所。
山頂付近と山頂から左側の下部には樹木があまりないし、右側は緑が豊かであることが分かる。
樹木がないことろが石灰岩質で、あるところは砂岩やチャートなどの地質となる。この上平寺ルートは6合目までは樹木を楽しめながら歩ける。

もう一枚の草原のような写真は、6合目手前から伊吹山を見上げた写真。
伊吹山を早々に見上げながら歩く、メジャー直登ルートは、早々に石灰岩地帯(=樹木が育ち悪いエリア)に入るので、伊吹山のお姿を眺めながら登れれるが、逆にこのように木蔭のない(=樹木の少ない)ルートになる。
酷暑の夏はなかなかハードな山歩きとなる。

画像


逆に、山頂付近から下を眺める。樹木があまりないのが直登ルート。
左側の緑の尾根が上平寺ルート。先述の通り、個人的には樹木好きなので、こちらのルートが好み。
地質による樹木の有無の差がとてもよく分かる。
中腹の平な処はスキー場だったので樹木はないかもしれないが、たぶん石灰岩地帯。

右上には大きく琵琶湖が見えている。とても近い。
空気が澄んでいれば、琵琶湖の対岸にある比叡山や比良山地も見える。
奥に雲がかかっているのは鈴鹿山地、一番近くは霊山山で、この山からの伊吹山もなかなか良い。
この晴れていればの爽快な景色も人気の秘密。

山頂付近は「伊吹山頂草原植物群落」として国指定の天然記念物
ムラサキの小さい花がたくさんあるのは「イブキジャコウソウ」シソ科の低木、海岸から高山まで岩地で分布範囲が広い。
6月〜8月が花期、この山に多い。
ムラサキの一輪は「イブキフウロ」フウロソウ科、亜高山性の植物、花弁に3つの切れ込みがある。
7月〜8月に咲く。かわいい。
白いふさふさは「イブキトラオ」タデ科、高山植物。1300mしかないのに、高山性の花がたくさんある。
イブキばかりの花を選んだが、「イブキxxx」という名前は30種類以上あるらしい。
都に近い植物が豊富な場所ということで、織田信長が薬草園を作り、牧野富太郎氏などが植物の研究をしたそんな歴史があるからと思われる。
画像 画像 画像

群落・・・夏の赤いシモツケソウ群落、白いサラシナショウマ群落など季節を変えてたくさんのお花畑を楽しめる。
最近はニホンジカの食害がひどく、保護活動が盛んになってきている。なんとかこの貴重なエリアを維持してもらいたい。

山頂の植物群落だけでもここまで来る価値はあるが、標高と共に地質や地形と共に変化する樹木群もまたとても興味深い山。
「伊吹山」とは!?、山を歩く人が好むあらゆる要素を持っている山。なんど歩いても知らない事に出会う山。
画像 画像


2022年7月23日[記]〜今までの伊吹山歩きを振り返って

現在地:空と雲と山歩き>森歩き>伊吹山とは!?