夏の森、樹木同定
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■落葉の少ない夏、樹木の同定は難しい■
夏の森、樹木は太陽を求めて大きく葉っぱを広げて、森を覆う。
緑滴る良い季節。標高が高い処を歩いていると、盛夏でも木蔭はヒンヤリとして気持ちが良い。
ただ・・・自然観察の視点ではやっかいな季節だ(笑)
たくさんの種類の樹木、それぞれの種類の葉が生い茂り、重なり合い。
つまりは、情報量が多すぎる。
観察の手段は、幹を見る触る・・・そして「見上げる」!
8月下旬、奥三河、面の木平・天狗棚、標高は1,100m〜1,200m辺り。
森林インストラクター仲間と研修会の下見。あれだ、これだと研修の材料を歩きながら探す。見上げてばかりで首が痛くなる(笑)
まだまだ諸先輩に教えてもらうことが多い。夏の冷温帯での樹木同定。
いわゆる、冷温帯のブナクラス域(環境省)のど真ん中。ブナやミズナラが主力樹種の標高だが、ここではあえて別種を紹介。
樹木で一番、分かり易いのは「葉」を見ること。(たまたま)地面に落ちている葉が一番。
この葉は大きい。20cmほどある。ぱっと見は大きなモミジに見える。
セリ目ウコギ科ハリギリ属「ハリギリ」:落葉高木、別名、テングノハウチワ。ウコギ科なので若芽は食用。モミジはムクロジ科。
あまり見かけないと思っていたが、「山地にふつうにはえる落葉高木」(APG樹木図鑑:北隆館)、「寒地に多い」(樹木の葉:山渓)とある。
幼木は樹幹に針があって分かり易いが、大きくなるとコブになったりで見分けが難しい。
20mを超える高木になるので、見上げると・・・
太陽の光を浴びて、葉が透き通って緑とこの特徴的な形状が良く分かる。以外に可愛いことに気が付く。
テングノハウチワか〜 ここは天狗棚、とにかくこの樹はたくさんあった。やはり天狗がいるのか!?
この山にはカエデ類が多い。日本には26種あるらしいが、ここで15種ほど観察出来る。
ムクロジ目ムクロジ科カエデ属「オオモミジ」:落葉高木。
イロハモミジから自然発生した種と言われ、葉っぱが大きく裂片が幅広く、切れ込み数が多い・・・たぶん、これはそう見える。
北海道〜九州の温帯に自生、イロハモミジ同様に谷沿いや斜面に普通。ここは、谷側の斜面。日本海側には変種のヤマモミジがある。
栽培品種が多く、庭園でみる夏でも赤いノムラモミジは有名。
こうやって、下から見ても、葉っぱはモミジ(当たり前か)とすぐわかる。
イロハモミジを筆頭だが「青楓(青カエデ)」は初夏の季語、古くから人と近い樹木。
カエデ属「メグスリノキ」:落葉小高木。ちょっと葉っぱが近い。民間療法にて、樹皮や葉を煎じたものが眼病に効く。
特徴は、三出複葉! 三つの葉でワンセット。東北南部から九州の冷温帯に自生するので、平地ではなかなか見れない。
よく似たカエデにミツバカエデがあるが、葉形の鋸歯が目立ち葉柄がちと長いようだ。
なんといっても、紅葉が美しいらしい。赤紫色からサーモンピンクに染まる姿は、モミジの中で最も美しい部類に入るとか。
秋に行かねば!
カバノキ科クマシデ属「サワシバ」:落葉高木、北海道から九州の冷温帯に自生。山地の沢沿いにやや普通。
クマシデ属は見分けが難しい、クマシデ、イヌシデ、アカシデとこの種。
イヌシデでアカシデは幹が大きく違うが、イヌシデは低地から山地と範囲が広い、アカシデは山の中。
クマシデとサワシバは冷温帯に自生するが、見分けは葉っぱが幅広く、幹が菱形に軽く裂ける・・・らしい。
この写真がサワシバと同定しているのは、銘板があったから(笑)
確かに、見上げて葉っぱを良く見ると、幅広だ。
バラ科リンゴ属「オオウラジロノキ」:落葉高木・本州〜四国、大分に自生、山地の尾根に稀。
バラ科なので花はバラの様・・・夏はない・・・葉っぱはバラ科の中では丸みがあるが高木になるとまじかで見れない。
ポイントは幹に針状の枝が独特な残り方をする。
たまたま、落ちていた実が、リンゴ(バラ科)の仲間であることが分かる。もうちょっと熟すとちっちゃいリンゴになる。
葉っぱが分かりにくい時は、幹や花や実に頼る。
ムクロジ科トチノキ属「トチノキ」:落葉高木、北海道西部〜九州の冷温帯に自生、谷沿いにやや普通。
日本産広葉樹最大の掌状複葉、対生する。ホオノキに似るが、冷温帯にある、鋸歯がある、葉柄がない、など分かれば見分けは容易。
とにかくデカい! 中央の小葉は40cmになるもののある。
秋には4〜5cm丸い実がなる。
栃の実、食用。地名にも栃が付く名が多い。栃木県の由来に諸説があるがこの樹もその一つ。
ベルギーやフランスの街の街路樹にセイヨウトチノキ(=マロニエ)が多い。秋になると黄葉して街と共に美しい風景を見せる。
ツツジ目エゴノキ科エゴノキ属「コハクウンボク」:落葉小高木、関東〜九州の冷温帯に自生。
エゴノキ科なので白い花が美しいらしいが・・・この夏のお気に入りはこの葉っぱ。
この日、上ばかり眺めて葉っぱを眺めていたが、この葉がこの写真がお気に入り。
ツンツンの頭をもったアニメのキャラクターの様な姿が太陽に照らされて、独特の美しさをそこに見出すのは私だけか!(笑)
夏の森は、樹木の同定は難しい。落葉は少ない、花も限られる、秋の実にはまだ早い。この地の様に高木が多いと尚更。
その場所の緯度(水平分布)、冷温帯という標高(垂直分布)、尾根か谷か斜面か(水分量)、北側が南側か(光量)
それを頭に入れた上で、全体の樹形、幹や枝の形状、葉っぱの大きさ形、時には匂いという情報をもとに、樹木を同定する。
それぞれの樹木にはそれぞれの生存戦略がある。
アニメキャラのコハクウンボクの葉の形状には必ず意味がある。今は分からないが、いつか分かる日が来るに違いない・・・?
2020年9月5日[記] 9月13日[改]
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