岩石と山岳景観

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■ 岩石が解れば山岳景観が見えてくる ■

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なんじゃ、この色気のない地図は!
国土地理院のHPから検索できる、「シームレス地質図、3D化出来て、衛星写真とのレイヤー機能付き」そんな地図です。 
場所は上高地
真ん中に大正池、梓川が上から蛇行しながら流入している…右側が常念山脈、左側が焼岳と穂高連峰。しかし、まったく色気がない。(笑)

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この写真こそ、上高地の写真! 色気のある写真!
3,000m級の山岳を望める山岳リゾート、スイスやフランスの山岳リゾートにも行ったが、そこと比べても景観は決して引けを取らない。
こんな景色をダダで見ることができる幸せ。
先日も妻とデートで訪れました。ここ数年、講習会や登山・観光でよく訪れる。

遥かに穂高連峰、広葉樹や針葉樹の緑、白い河原、透き通る碧い梓川…
言葉をなくすほどの美しさ…
その秘密は構成する岩石と地形にある…

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さて、岩石はどうやって出来るのか…信州大学のHPから図解を拝借。
大きくは4種類、「深成岩」「火山岩」「堆積岩」そして深成岩や堆積岩が高熱や圧力で変化する「変成岩」

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一つ目、「深成岩」…マグマが地下深い処でゆっくりと冷やされて出来た。鉱物の結晶組織が顕著
流動性が低く、白っぽい順に「花崗岩」「閃緑(せんりょく)岩」「斑糲(はんれい)岩」
最も有名なのが、
写真の「花崗岩」…別名、御影石。
ここは上高地の徳沢辺り、梓川の河原での写真、水で洗われ丸っこいが、結晶が分かりやすい。
主成分が石英(灰色)と長石(白っぽい)、それ以外は黒が黒雲母などなど。

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常念岳山頂から北側、大天上岳など花崗岩の山波が続く、1億年〜6500万年前の時代の花崗岩が主役。
岩峰というほどでもない。花崗岩が風化で崩れて、一部はマサ化、砂礫化。山容は「なだらか」になる。
でっかい岩があるのが中央アルプス、山脈全体が花崗岩。
硬めの大きな岩が残ったりしているが、やはり全体的になだらかな感じになっている。
上高地の梓川も上流部東側の常念岳周辺の花崗岩が崩れて上流から流されてきている。おかげで河原が白くて美しい。
「閃緑岩」…上高地には「閃緑岩」と「花崗岩」の中間にあたる「滝谷花崗閃緑岩」がある。
140万年前、穂高の西側の滝谷〜上高地側にかけて露出している《世界で最も若い》花崗岩らしい。プレートの圧力で押し出されてきた。
地下で固まったマグマはそんなに簡単に地表には出てこないってことか。 上高地のウエストン碑もその岩、まじかで見たり触ったりできる。
「斑糲岩」…黒っぽい石、石英や長石が少なるなり有色鉱物(角閃石や輝石など)が多い。 筑波山が有名。まだ、未踏峰なのでいつかは行きたい。

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二つ目、火山地帯に多い「火山岩」…マグマが噴火活動で地表に噴出して急速に冷却されて出来て、
結晶が大きく組織化されずに肉眼では見えないほど小さな組織となる。
これも流動性が低く、白っぽい順で、粘っこい「流紋岩」「安山岩」、黒っぽいのが「玄武岩」
「流紋岩」…白馬山系の雪のように白っぽいエリア、
写真は白馬岳の北、船越ノ頭から、白馬方面を眺めたもの。
雪のように白い筋が流紋岩、ここは細かい割目が多いこの岩が凍結破砕作用によって砕かれ砂礫地になった。
不安定なので植物の生育に適さず、コマクサやタカネスミレなど一部の高山植物のみに限られる。
確かに白い、最初は雪渓かと思ったほど。

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「安山岩」…写真は白馬乗鞍岳。最近では17万年前の噴火で溶岩が噴き出した。
確かにちょっと黒っぽくて、粒粒は見えない。
黒や灰色の岩石の地部分に黒のゴマ粒ぐらいの粒粒がびっしり詰まっている。
風化すると表面が白色になるらしい。
この写真撮影時は、登りで、しっかりと岩石を見ていない。
そもそも、山歩いていると、そんな余裕はあまりない(笑)

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槍と穂高の主役は、「穂高安山岩」と呼ばれる。
信州大学の原山教授の上高地講習にて教わった正式名称が「溶結凝灰岩」
176万年前、槍と穂高は巨大なカルデラ火山で、破局的な巨大噴火により700km3を超える莫大な火山灰を降らした。
カルデラは大陥没してそこに火山灰が溜まった。600℃の高熱により火山灰が溶結して硬い岩となる。
非常に硬い岩石で、縦に割目が入るので痩せ尾根や絶壁が出来る。それが“岩の殿堂”穂高連峰を形成する。
この岩にはそんな壮大な物語がある。先生の曰く「岩石はイベント記憶媒体」の由縁。
誰もが良く知る焼岳は今も活発に活動していて、火山岩である溶岩が噴出して固まった「玄武岩」「安山岩」でできている。

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火山岩の最後は「玄武岩」
日本には火山で玄武岩質は少ないらしい。伊豆・小笠原諸島にはあるようだ。 地殻が薄いと玄武岩との関係があるとか!?
山ではないが、印象に残っているのは、日本海側城崎温泉の近くにある「玄武洞」、
国の天然記念物、約160万年前の噴火によって流れ出し、その後浸食された。
柱状節理が発達していて、ぐにゃぐにゃ曲がる姿は大迫力。 
流動性が高いので、溶岩台地を作りやすいようで、
ハワイの火山噴火でどろどろと地表をゆっくり流れる映像をよく見るが、あれが玄武岩らしい。 そういえば、三原山も火口付近もベタ〜っとした感じ。
ただ、玄武岩はクロっぽい岩が多いが、この写真はちと白い。

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深成岩と火山岩はまとめて「火成岩」と呼ぶ。今まで説明した2種がまとめてわかる画像がこれ、ググって分かり易い図を拝借。
いずれもマグマ、地下深くで出来るのが深成岩、火山が噴火して流れ出して固まるのが火山岩。
入っている鉱物と冷え方、さらに露出した後の風化や置かれた環境で、見た目が変る。なかなか、素人では判別が難しい。

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3つ目、「堆積岩」…砂、泥、礫、火山から噴出物が砕屑物な固結して出来た岩石
「砕屑岩」「火山砕屑岩」「生物岩」がある。

「砕屑岩」は砂岩や泥岩、礫岩。
山波の写真は、常念岳山頂から南側、蝶ヶ岳方面の写真。
稜線をたどれば、雲で見にくいが、山容が変わる…植生が大きく変わる(緑が増える)境目があるが、おそらくあそこからが堆積岩-砕屑岩-砂岩/泥岩に変っている。
因みに、石が並んでいる写真は、
梓川の河原で岩石判別テスト、手前が花崗岩、一番奥の黒っぽいのが「泥岩」。
砂岩や泥岩は崩れやすく、山頂部もゆるやか!?(花崗岩はなだらか)だ。火山岩で出来ている穂高とは対照的。
「火山砕屑岩」は「凝灰岩」と「凝灰角礫岩」。
「生物岩」は、おなじみ「石灰岩」「チャート」「石炭」がある。

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四つ目、最後は「変成岩」…高熱や圧力で変成作用を受けた岩石
「接触変成岩」「広域変成岩」に分かれる。
「接触変成岩」は、結晶が密に組み合わさる硬い岩石。堆積岩が変成作用を受けた「ホルンフェルス」(=桜石)と石灰岩が変成した「結晶質石灰岩(=大理石)」がある。
「広域変成岩」は、結晶が同じ方向に向いて薄く?れる岩石。
頁岩由来の「粘板岩」、泥岩由来の「千枚岩」、破屑岩由来の「結晶片岩」「片麻岩」、
なにより記憶に新しいのが尾瀬の至仏山を構成する「蛇紋岩」だ、この岩だ! この岩め!
超塩基性岩(かんらん岩、マグネシウムを多く含む岩石)が水による蛇紋岩化作用!?を受けて変成する。
かんらん岩はマントルの主構成岩、本来は緑っぽい色らしいが、風化すると茶色になることもある。
因みに、マントルとマグマは違う。地球の内部にある固体のマントル、マントルや地殻が局所的に熱と圧力で溶解して地上近くにあるのがマグマ。
横道に逸れた。(笑)
とにかくこの変成岩の蛇紋岩は、もう滑って滑って危ない危ない。前日の雨で濡れたので尚更。これは下りには使えない。本当に苦労した思い出の岩石と山。

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さて、改めて「上高地地質図」を見てみる。
焼岳は現在も活動中で山も火山岩(茶色)、世界一若い140万年前の深成岩(赤)、槍穂高は176万年前の大噴火での火山岩(黄)、常念は1億年前の深成岩(紫)、笠ヶ岳は1億年前の噴火による火成岩(肌色)。
常念の南、蝶ヶ岳から南が堆積岩の砂岩・泥岩(緑)となる。
まだ日本が大陸に付加体として張り付いていた頃の岩石もあるが、
日本列島が今の形になって以降、つまり1100万年以降の火山活動(焼岳や槍穂高など)による火山岩の面積が多い。
そりゃ、荒々しいゴツゴツした岩山が多くなる。
そんなこんなで、
穂高連峰の荒々しい雰囲気や白っぽさは溶結凝灰岩、梓川の河原は白っぽい花崗岩、青い空と碧い川、落葉広葉樹の薄緑、常緑樹の濃緑…これらの条件が揃ってこそ、
上高地は美しい。
そう思って、この地質図を眺めれば…色気のある地図に見えてこないか!?
2019年9月14日 [記]  2019年9月23日[改]

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