単葉の進化系は複葉か!?
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■ホオノキとトチノキから考察■
クマシデ:カバノキ科クマシデ属、九州や本州の冷温帯に自生。シデの葉っぱは見分けが難しい・・・いやいやそれがテーマではない(笑)
「単葉」:葉っぱが一枚、葉腋から葉っぱが一枚だけ出ている。
葉腋とは葉の付け根(オレンジ〇)、ここから芽が出て葉っぱが成長する。
写真は、夏、葉っぱ成長して我も我もと太陽光を奪い合いっているクマシデ(笑)
これでは効率が悪いので、対策として、 葉の生える順序である「葉序」を進化させたり、
太陽光に対する「正の屈光性」の仕組みで葉の位置を微妙にずらして重ならないように努力している。でも、単葉ではコントロールに限界がある。
そこで、これを解決するために「複葉」という進化系がある。
・・・と一般的には言われている。
「分裂葉」、単葉の一種だが進化系。
ハリギリ:ウコギ科ハリギリ属、北海道から沖縄の温帯・亜熱帯に自生。寒地に多いが、低地にも時に混生する。
葉っぱが特徴的で、12cmから30cmと大きい。
高木になるので、葉を近くで観察できないが、落葉した葉を見るとその大きさに驚く。
太陽の光を一杯に浴びるべく、葉っぱを広げすぎて「分裂」したようにも見える。よって「分裂葉」と呼ぶ。
〇が付け根(=「葉腋」)、細い柄「葉柄」、葉っぱ本体を「葉身」という。この3要素が一枚の葉の構成。
同じウコゴ科ハリギリ属のハリブキ、ヤツデ、ムクロジ科カエデ属も、葉っぱが分裂している。
分裂は単葉の進化系らしい。ぐぐっと掌を広げて太陽を浴びようとして、葉っぱが裂けた感じ。
「3出複葉」:分裂葉が本当に分裂して複葉になる。
葉腋から先が一枚の葉なので、葉腋+葉柄+小葉3枚(葉身)あってもこれで一枚。
2つではなく、3つに分かれた。それで、「3出」の「複葉」。
なぜ2セットにならないか、不思議。自然界には意外に奇数が多い。
因みにこの樹種は、
メグスリノキ:ムクロジ科カエデ属、東北以南の冷温帯に自生する。カエデ属の中で最も美しく紅葉する。
名前は戦国時代頃から樹皮を煎じて目薬とした民間療法から来ている。
カエデ属の中でも最も美しい紅葉する、鮮やかなサーモンピンクは本当に美しい。
「掌状複葉」:この葉っぱも特徴的。
トチノキ:ムクロジ科トチノキ属、温帯の落葉広葉樹林帯の主要樹木。水気を好む。
大木になり、葉っぱも最大長50cmにもなる。
「分裂葉」が進むと「3出複葉」や「5出複葉」などあるが、掌(てのひら)の指を目いっぱい広げたような形状を「掌状複葉」と呼ぶ。
やはり、葉っぱの出発点は葉腋(オレンジ〇)、その先に葉柄、複数ある小葉を含めてセットで「一枚の葉っぱ」になる。
葉腋から、葉柄が伸びて、一枚の葉身が5の小葉に分かれてググっと伸びる。
こうやって小葉がバラけると、葉の上で“空気の乱気流が起きやすく、周囲から二酸化炭素が供給される”。(里山さんぽ植物図鑑)
「奇数羽状複葉」:ちょっと名前が難しい。
「分裂葉」が掌状にならずに、縦方向に長く伸びて分裂、左右に小葉を羽毛のように「羽状」になる「複葉」。
左右だけにある場合は偶数になるので、「偶数羽状複葉」、先端についていると奇数になるので「奇数羽状複葉」と呼ぶ。
これも、たくさんの小葉がついていて、きっと小さな乱気流が起こるだろう。
この樹種は、サワグルミ:クルミ科サワグルミ属の落葉高木、北海道南部から九州まで谷側沿いに自生。東北を代表する樹木。
「羽状複葉」は、クルミ科、ミカン科(サンショウ等)、ウルシ科、バラ科(ナナカマド)、マメ科などたくさんある。
その他、3出複葉が2段階の「2回3出複葉」、3段階の「3回3出複葉」、
羽状複葉が2段階になる「2回羽状複葉」、3段階の「3回羽状複葉」などがあり、バリエーションはたくさん。
先述した通り、ムクロジ科トチノキは複葉、複数毎の小葉が葉腋から伸びて、これで一枚!
よく似た葉っぱのモクレン科ホオノキは単葉。あの朴葉味噌のホオノキ、一見見た目は何が違うのか!?
最大の違いは、葉腋の位置が違う。
トチノキは、掌(てのひら)の中心から複数の葉身が伸びていて、そこに「葉柄」はない。その掌の中心から枝に「葉柄」が一本伸びて葉腋に繋がる。
ホオノキは、掌(てのひら)の中心にから複数の葉が伸びるまではそっくりだが、葉腋はその中心にあった、そこから、短い「葉柄」と大きな「葉身」がある。
ホオノキは葉腋が固まって、そこから一枚の葉がたくさん放射状に伸びている。だから見た目が似ている。
ここでふと考える・・・掌状複葉は“進化系”というが、本当に進化系か!?
「複葉にはどんなリット」があるのか? 3つある。(By 植物生理学会QA)
1.一枚の葉を大きくして分裂して、乱気流を起こし空気交換を促し「光合成効率」を図る機能。
2.立派な枝を造って単葉を付けのは時間とエネルギーがかかるので、すばやく複葉を造って、条件が悪くなればすぐに捨てれる、余ったエネルギーを高さに使う「使い捨て/安普請の枝」機能。
3.小葉があるほうが、「光受容の調整」が可能となり、葉の角度を変えて光合成の最大化、水分蒸発の最小化が出来る機能。
たいていの種子植物にはそれが当てはまる。
が、ホオノキ(単葉)とトチノキ(複葉)は、葉の形を見る限りは「光合成効率」も「光受容の調整」に違いがないように見える。
「使い捨て/安普請の枝」機能もどちらも高木で差がないが・・・それでも複葉のトチノキが進化系なのかなかぁと疑問が湧く。
やはり、葉腋は一つで複数の葉を展開・落葉する方がエネルギー効率が良いのか!? ホオノキはモクレン目モクレン科という古い種なので、独自の進化を遂げたのか!? はたまた・・・!?
さて、複葉は進化なのだろうが・・・どんな進化か・・・実は環境に対応した“変化”に過ぎないのか・・・ たのしい「!?」疑問はどこまでも続く♪
------------------後日談1-----------------------
日本植物生理学会「みんなの広場」に質問したところ、学会の先生方から詳しく解説(登録番号4979)をいただいた。
1.植物(例:ミチタネツケバナ)によっては、複葉から単葉に戻ることもあること。
2.ホオノキは成長過程が先駆種に似ていて、複葉ではないが、枝を作らず葉っぱを大きく広げて、上に伸びることに注力していること。
"単葉と複葉は進化である”という単純な一般論ではなく、植物は生きている時代や環境次第で最も良い方法を選択するということを学んだ! ありがとうございます!
------------------後日談2-----------------------
仲間(森林インストラクターB氏)から「耐風性視点・・・受ける風の抵抗は単葉のホウノキの方が風に耐えるエネルギーを多く必要で、トチノキは葉の間から風を抜くことができ耐風のエネルギーが少なくてすむのではないか、であれば育つ場所はホウノキは風当たりの少ないところ、トチノキは多少風が当たっても良い場所など住分けられるのかな・・・」という興味深いご意見をいただきました。
確かに、複葉のように葉腋が一つの方が葉っぱの動きの自由度が高そうだし、自生する場所も単葉のホオノキは風がなさそうな谷あいに、複葉のトチノキは冷温帯で明るい(=風が吹く)河畔に多い気がする。
こんな視点で、植物の生きる知恵を考えるのはとても楽しい!!
2021年1月29日 2月27日<改>
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