上高地 徳本峠【2,140m】

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“そうだ、徳本峠を歩こう!”
徳澤園で、絶品のソフトクリームと珈琲をいただきながら、山と高原地図「槍ヶ岳・穂岳岳」をがバーッと広げて決めた。
涸沢の紅葉は終わった。ここ奥上高地はもう始まっている。
徳本峠まで、ゆっくりと歩けば約4時間あれば十分だろう。
晩飯までの時間、キャンプサイトのベンチに仰向けに寝っ転がって、青い空とハルニレの黄葉を楽しむ至福の時間を過ごす。
月は半月で明るいが、負けじと星も美しい。カシオペアの真上に白鳥座が見える。
静かな夜。

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夜明けとともに動き出す。今日は曇りか…明神と前穂高にかかる旗雲に当たる朝日が美しい。
「山の良さは山で寝て、山の水を飲んで初めて分かる」と著名な登山家が言った言葉を思い出す。
靴紐をぐっと締めて、歩き出す。

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梓川沿いを明神方向へ。
この季節、紅葉を楽しむだけでなく“香り”も楽しめる。
カツラの美しさは、立ち姿、ハート葉っぱ、レモン色の黄葉と数あるが、何と言っても“馨(かぐわ)しい”香りが良い。
焼き菓子やカルメラの香りに例えられるが、
何処からともなく風に乗ってふわっと香るこの感じがなんとも良い。
カルメラ、いや なんと表現すればよいのか・・・秋の森の香り
この場所でしか体験できない、甘い馨しい香り。

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明神手前の分岐、奥上高地遊歩道を離れて、いよいよ徳本峠への峠道に入る。
昭和初期に上高地までど道路が開通するまで、島々から徳本峠を超えて上高地へ入るのがメインルートだった。
明神の入口は白沢、上流の花崗岩地帯の白いマサ化した砂が流れ込み広い扇状地を造っている。
ゆえに、傾斜が緩い。荒れた白い河原を右に見ながらのプロムナード。静かな谷歩き。
2kmほど歩くと、谷が分かれ、黒沢へと分岐する。
黒沢のある谷筋は砂岩と泥岩の堆積岩、黒っぽい石が多い。白沢との対比が面白い。
それを楽しむ余裕はない、ここからが本格的な峠道。
亜高山帯に自生するミネカエデの黄葉がお出迎え。

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徐々に傾斜が傾き、山道もつづら道となる。
秋、味わい深い峠道、モミやシラビソの森にカエデ類が見事。
針葉樹にマケズと目立つのがダケカンバ。
先駆植物で荒れた沢、崩れた山の斜面に真っ先に芽生え、太陽光を浴びるべく枝葉を広げるので、黄葉すれば目立つ。

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白に近い褐色の幹、扇状に広がる樹形。
曇りがちな谷に針葉樹に比べると黄葉も花が咲いたように華やかになる。
喘ぎ喘ぎ、つづら折りの道でなんども立ち止まり、
「あぁ」
「なんと美しい」と独り言ち呟く。
京都の紅葉の造形美も美しい。決して、艶やかではないが、この上高地のこの谷に黄葉は美しい。

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難所を乗り越えて、再びのつづら折りの道を歩き、山頂に到着。
分岐から所要時間、2時間40分。標高は2,140m。
山頂には徳本峠小屋。今シーズンを終え、小屋番さんが冬支度の最中。まもなく厳しい冬が来る。
峠の南東方向には島々谷、そのはるか先には松本盆地。
島々宿から谷を上り詰めてこの峠に到達するに約8時間かかるという。
昭和初期までは、上高地は来るにも一苦労だった。

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山頂から上高地側は、残念ながら展望が開けず。
山頂部を流れる雲を眺めながら、豪快な穂高を想像する。
正面に明神岳 2,930mと前穂高岳 3,090m、
明神の左側に奥穂高岳 3,190m、左に西穂高が連なる…豪快な景色のはず。
明治期に上高地を再発見して世に広めたウォルター・ウェストンも上條嘉門次と眺めた。
小島烏水も芥川龍之介も高村幸太郎も。
さぞや、驚愕の景色だったことだろう。
なにも見えないがそんな感慨にふける瞬間。秋深い山歩き

2021年10月16日[登山] 10月17日[記]

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