ソワーニュの森と四季

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欧州ブラッセルに赴任していた3年間、よく「ソワーニュの森」に通いました。
借りた家がこの森の近くにあり、歩いて行けたのです。

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この森は、ブラッセル市の南東部に広がる広大な森です。南北東西とも10km以上あります。
何百年前は、ブラッセル市もこの森におおわれていました。
中世は森に町が散在し、人々は森とともに暮らしていたはずです。
時代がすすむに連れ、街は、森の樹は薪や建物用に伐採され、開拓され、広がって行ったのです。

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文化的に人と森の繋がりは深かった。
電気もない時代、冬の森は人々の恐れの対象でした。
魔物がすむ処、悪魔の森だったわけです。

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確かに、この辺りの冬はたいへん厳しかった。
−10度の日もありました。
車のフロントガラスの内側が凍っている時もあったほどです。
そんな日の朝に森を歩きます。

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深呼吸すると外の冷気が、身体に入り、一辺に体が目覚めます。
音を吸収してくれるせいか、いつにもまして静かな森です。
風はほとんど強くなく、時折起こる空気の動きで、雪や氷が舞いっています。

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冬は長い。これが中欧の冬。
4月に入ると、氷と雪の世界が消えていき、
私が最も気に入いりの新緑の季節がやって来る。
冬が終わり、それを喜ぶカーニバルが過ぎ、ブナの新芽が芽吹き出す頃。

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この森は8割以上はブナです。
世界でも10種を越えない、ブナの種類の内、ヨーロッパブナと呼ばれる1種がここです。
葉っぱがちょっと丸っこくって、なかなか可愛い。

新緑の芽吹きは日本でも、生命あふるる景観が心を打ちますが、この森は格別でした。 
見渡す限りの緑、それも明るい黄緑色! 新緑の匂い、日陰の涼しさ、日当たりの暖かさ。 

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ブナの森の林床はそう豊かではありません。
でも所々にはっとする、花が咲いていることがあります。
そこは往々にして、日が当たる場所に花が咲きます。
陽にあたるあざやかな色の花は、華やかな花です。

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新緑のプロムナードは、歩いて好いし、自転車で走って好い。
風を感じながら、颯爽と森を駆け抜けると本当に気持ちがよい。

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鳥のさえずりも美しいのです。
絵にかいたような、細い鳥のさえずり、森に響く澄んだ声…


こころ踊る新緑の季節です。

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夏は陽射しがやわらかい。
日本ほど温度は上がらず、湿気もない、さわやかな夏です。
温度は25度前後でしょうか。日本の高原の夏の近い。

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太陽の陽射しは一年で一番高く、強く、森を照らします。
ブナの葉は太陽光をいっぱい浴びようと、葉っぱを広げ、木陰をつくります。

その下を歩くと、とてもさわやかです。
蝉など泣きませんから、風の音と葉擦れがそよそよ、まさに高原の風。

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木漏れ日で、読書でもしたくなります。


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この落葉樹は、大きくなると30mの高木となります。
何百年もの巨木もたくさん、
すっくと真っ直ぐに伸びたその姿は、下から見あげても、本当に立派なものがたくさん。
見ていても気持ちが良いものです。


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最後は秋です。
まさに、黄金色の森。

「紅葉、それは旅路の果ての最後の輝き」

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ブナはまさに、黄金色に輝き、豊かな実りをこの森にもたらします。
ブナの実は、子孫を残し動物の糧となり、ブナの落葉は、土地を豊にし、土を造り…


日本の山や谷の紅葉は見事です。赤と黄色の調和は美しい。
でも、ここの黄葉は、豪華絢爛です。
圧倒的な量の黄葉、見渡す限りの黄金色、なにもかもを呑みこんでしまうような奥行きのある黄金色です。
ヨーロッパでは、“民族の樹”とも呼ばれ、 「ブナの生ずる所 常に土地は美しい」といわれています。

楽しい時は、森に行き
苦しいときは、森に行き

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季節季節でみせるこの森の姿に、リフレッシュさせられました。

19世紀、この森は伐採が進み荒廃したそうです。
その反省を活かして、いまは100年レベル!?の長期計画に基づいて管理されています。

一度、伐採された巨木の年輪を数えてみました。250年ありました。
遡れば、江戸時代中期のものです。
そんな巨木達がすっくと眼の前に現れると、一個人の悩み事など、どこかへ吹く飛びそうな気がしてきます。

日本の森も、今管理のされ方が見直されています。
ぜひ、百年単位でしっかりと森を育て、ソワーニュの森のような癒しの森が都会の近くにできるように期待しています。
 
2013年1月5日[記] 2021年12月19日[改]
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