プチ救助 体験

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■私版「山がくれた百のよろこび」14 ■


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その方に出会ったのは、木曽駒の中岳と最高峰との鞍部、
霧が濃く、登山者もまばらなタイミングでした。
ちょうど私は、月曜の俗世の仕事に戻る為、「植生調査」を途中離脱して、次の調査場所に向かう山のプロと一緒に、千畳敷へ向かう途中でした。
その方が突然に「助けて下さい!」と話しかけてきたのです。
ちょっとしたパニックになっているご様子のご婦人がそこに居ました。

ご婦人:「心臓がバクバクして、もう動けないんです」
「そこの頂上山荘で休憩してヘリコプターを呼んでもらえるかしら」
と息も絶え絶えに話されます。
山のプロ:「頂上山荘にいるよりゆっくり下った方がよい。ちょうどこの人(私)が千畳敷へ下るので連れて行ってあげます」
私:「そうそう、ゆっくり歩いて行けば大丈夫、一緒に帰りましょう」

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ご婦人:「濃霧の中、一人で歩いているとだんだん不安になってきて、息が苦しくなってしまいました。助かります。」
私:「高度障害もあるかもしれませんね、ここはもう標高3,000m近いですから。休み休みいきましょう!」
ご婦人:「昨日も夜高速を走って麓についたのが夜中で睡眠時間も短かかったんです。ちょっと無理しずぎました。ご迷惑かけます。」
私:「それならなおさら、ゆっくり行きましょう。ここ(乗越)まで来たら後は下りだけです。」

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その方は、もともとは高山植物を見に来られたそうです。
千畳敷カールや乗越までは花があり、その後は花が少なくなります。
きっと、霧も濃くなり、花もなくなり目的意識がうすれるなかで、だんだんと不安が増してきたのでしょう。
花談義や山談義をしながら、ゆっくりと歩いていると、相当落ち着かれた様子。
良かった、良かった。

ご婦人:「途中でみたピンプのかわいい花はなんという名前なんでしょうね…(あっと見つけて)これです」
私:「それはコマクサで、高山植物の女王というぐらい美しい花ですよね。花の形が駒(コマ)ににてますもんね」
ご婦人:「本当にきれいですね〜」
ご婦人:「これはハイマツですね」
私:「そうですね。高山性の松で、今花盛り。枝先に雌花、このピンク色が雄花です」
ご婦人:「花を見たのは初めて! 綺麗!」

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千畳敷は高山植物の宝庫です、知っている範囲内でご説明して、会話して、下っていきました。
ロープウエイ駅に到着した時はすっかり「花の虜」でした。元気になってくれた。
麓のバス停までご一緒して、「これからもお互い元気で楽しく山を歩きましょう」と意気投合して、グッドラックサインで別れました。

とても印象に残る出来事でした。
人がパニックになる、それを鎮める、一緒に歩く、植物について語り会う、助け助けられること、大自然について感動することを共有する。
まったく知らない者同士が共感できる…都会では起こりえない…そんな環境が山の中にある
人ほんらいの姿に戻れる、そんな山歩きの良さを実感する出来事でした。

 
2017年8月17日 [記]

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