【 山小屋寂し 人恋し 】

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■私版「山がくれた百のよろこび」13 ■


 山小屋寂し 人恋し 

山小屋で一人で泊まったことがある… 最初はそんな予想は全くしていなかった。 
場所は屋久島淀川小屋、国立公園・世界自然遺産の真っただ中の避難小屋、周辺数Kmには宿泊施設はない。
到着時は、確かに"人"がいた。
皆さん宮之浦岳や黒味岳の帰りで、夕方には独りぼっちに…

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数少ない山小屋経験は、すべて楽しい思い出ばかりだ。
宿泊者の年齢や性別はばらばらだだが、皆「あの山を登る」という目的は一つ。話は盛り上がる。
誰もいない、そんな状況は初体験。
夜の帳(とばり)が落ちると、見事に真っ暗、いらゆる漆黒の闇。都会ではありえない暗さ。
それはそうだ、ここは国立公園・世界自然遺産のど真ん中、電気など人工物などあるわけない。
遠くからは、ホウホウ、キーキーとか・・・獣(ヤクシカやヤクザルなど)の声がこだまする。
ここは熊など肉食系の動物はいないことは知っているのだが、獣(けもの)はたくさん。

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暗闇は、孤独感と寂寥感を増幅させ、見知らぬ音は恐怖心を" 沸騰 "させるのだ。


小屋の片隅で、シュラフに包まり、ライトを頭に、文庫本などを読む。
意識を文字に集中させようとするが、そう上手くはいかない。
このいいようのない寂寥感は、頭が五感がやたら冴えてくる。
やたらと広く見える小屋は仕切りのなく、全面板張りで、ライトでは奥はぼやっとしか見えず、あの奥に誰かいてもはっきり見えんなぁと思った瞬間、もうダメです。
恐怖があらゆるものを、化け物に変化させます。

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小屋奥になにかを入れたビニール袋がありました。
あんなもの、入ってきたときにあったか?と思い始めるともうダメです。
"KasaKasa"と音がしたような…
さっき見たときより、場所が少しこっちに近づいているような…
もう怖くて、ライトをそちらに向けることができません。
一晩中、シュラフから出れずに、トイレにも行けず。
人ってこんなに簡単に恐怖で身動きできなくなるのか! 俺ってこんなにビビりだったんだと再認識。
翌日はなんとか、黒味岳(1,831m)まで到達した後、キャンプをやめて民宿に泊まりました。
なんだか、人恋しくて… よく話す民宿のおば様が仏様に見え。
人の、己の心の弱さを発見した貴重な体験でした。
こんなのも、過ぎてしまえは、また楽し。


2017年2月3日〈記〉 インフル床で昔を思い出し


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