秋の森の香り

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■私版「山がくれた百のよろこび」21■

甘い香り。若い頃、足早に山道を歩いている時は気が付かなった。

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甘い香り、なんと表現すれば良いだろう。
たいていは風に乗ってどこからか、誘うように香る。
晩秋の落葉の季節で、その風は冷たい。
だだ、その香りの風はそこはかとなく「かぐわしく」甘い。

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誘われてふらふらと風上へ歩くと、小さな谷にたどり着いた。
黄色い落ち葉に覆われてその谷、奥から時折、冷たい空気とかぐわしい香りを運んでくる。
この谷の奥にある。そうこの奥。

ときどきに通過する登山者は、気にも留めず通過する。
この甘い、香ばしい香り・・・「秋の森の香り」
あえて例えるなら、綿あめ、キャラメル、クッキー、焼き菓子の香り、
子供の頃を思い出す。ゆっくり歩けば、自然を五感で感じて歩けば、その香りに気が付く。
今更に、森に遊ぶ 大人の楽しみを見つけた思い。

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足下の葉っぱを拾えば、「カツラ」だ。
カツラ科カツラ属の落葉高木。香りが出ることを意味する「香出(かづ)る」が名前の由来といわれている。
北海道から九州まで自生するが、特に奥山の谷や沢沿い、林縁に多い。
左右対称の端整な樹形や新緑と黄葉の美しさから、万葉集や古事記にもその名が登場し、日本の銘木として海外でも知らているらしい。
カツラの仲間は、白亜紀や古第三紀から生き延びる原始的な樹木の一つ。かつては北半球に広く分布していたが、今日では中国と日本にのみ残るという。(樹木ウイキペディア)

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香りの成分は、マルトールというピロン環をもった物質で、独特の香り、甘味を助ける働きがあり多くの食品に添加される糖の一種。
カツラの緑葉には少なく、黄葉、紅葉となるにつれて含量が多い。葉が老化段階に入ったり、乾燥したりすると増加する。
マルトールが代謝過程で生合成されるかどうかは明らかではなく、細胞が弱ったり、死んだりして細胞内の成分局在の区切りが壊れた後に起こる成分間の化学反応によって生成される可能性が指摘されいる。
マルトールの薬効(抗酸化作用など)についての研究はかなり多くがあるようだ。(植物生理学会QA2014年)
香りがなぜ発生するかは分かっているが、何の為かを含めて未だ正確には究明させていない・・・ということか。

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里山のタカノツメの落葉にもこの香りがあることに気が付いた。
濡れた落葉がより強くなる。
やはり、風と共に流れてくる 秋の里山の匂い。足早に登山道を歩くと気が付かない。
細胞が壊れた時に引き起こされる化学変化の結果が「この香り」か・・・
落葉はそもそも、冬に備えて樹木が維持にエネルギーがかかる葉っぱを切り離すという現象。
そう思えば、この香りの「かぐわしさ」の意味がより深くなる。
秋の終わりに相応しい 「香出(かづ)る」森の香り。
今、たまたま聞いているSlow JAZZが良く似合う。

2021年1月1日[記]

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