樹木は病原菌にどう立ち向かうのか

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■病原菌と樹木の生存戦略を考える■

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森を歩いていると、かわいい班入りの樹木に出会った。
新緑の緑に黄色の斑点、なかなか良い。
樹木は、ウコギ科のタカノツメ。この三出葉と綺麗な黄葉が印象的な木。
しかし、こんな斑入りは見たことない。

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葉っぱを凝視すると、
これは「班」ではなく、葉っぱが細菌がついて、変色していることに気が付く。

樹木も病気になる。伝染性と非伝染性(大気、土壌汚染、害虫など)に分かれる。
伝染性の病気の原因は、細菌やウイルスや線虫などいろいろ種類があるが、95%は菌類(カビの仲間)らしい。
病状も器官毎に名前があって、「葉枯病」、「胴枯病」、「腐朽病」、「土壌病(根)」など4種類、すべての部位になんらかの病気がある。
タカノツメの現象は葉枯病だろう。「タカノツメさび病」か。(樹木医N氏)

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植物は樹木はこれにどう対抗するのか!
残念ながら、植物には動物のように「免疫細胞や抗体ベースの免疫システム」はない(植物生理学会QA2010)。
なかなか体系立てて解説してくれる良書がないが、(勝手ながら)大きく2つの対抗法があると推測する。
一つ目、短期的な対抗策、その植物本体で対抗する方法。
そもそも、植物を含む真核生物の細胞には非自己を認識して、細胞レベルで抗菌物質を生産して対抗する。
植物も例外ではなく、大きな侵入口になりえる気孔を閉じたり、細胞壁を強くしたり、抗菌物質を造ったり、RNA干渉というウイルスを無効化するシステムなどがあるらしい。(同上)
虫が大量に発生した被害が大きくなると、エチレンを出して周辺に伝えるという「集団防衛」システムがあり、虫対策で葉っぱもまずくなる。(樹木医N氏) すごい!
とまあ、病原菌には対抗できる体制が整っている・・・が、相手も種類が多くまた進化するので、防ぎきれないと病気になってしまう。
仮に侵入されても、病原体が広がらないよう、「過敏感反応」と呼ばれる抵抗反応を誘導する方法がある。
葉っぱ上のに死んだ領域を作り茶色の斑点となる強力な防御反応。(植物生理学会QA2010) これまた、すごい!
いつかの講習会で、穴ぼこだらけのサクラの葉っぱが「自爆した葉っぱ」(笑)だと教えてもらった事を思い出す。
病原菌側も興味深い生活史を持っている。
多くのさび病菌は2種の植物に寄生するので、さび病もどこかで中間宿主をもっているのではないかという説もあり(樹木医O氏)、これが解明されれば有効なさび菌対策になる。
まだまだ不明点が多いこの分野、植物も病原菌もゲノム解析が進む中、もっといろんなことが分かってくるだろう。

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2つ目、長期戦略、子孫に多様性を持たせる!
「動植物の多様性が大事」なんて、よくスローガンを聞くが、植物にとって何の為に必要なのか・・・一様でも良いのではという疑問も湧く?
多様性には3つの種類がある。生態系の多様性、種の多様性、遺伝子の多様性(環境庁)。
ここでいう長期戦略は、遺伝子の多様性。
最大の目的は、細菌やウイルスに対抗する種類の増加、多様性(=多種の遺伝子)があれば、生き残る確率が増える。つまりは、自己の子孫を残せる。
動物も植物も、基本は有性生殖、自分自身だけでは子孫を造らない。
植物にもそんな仕組みがある。雌雄異株(雄と雌が別株)雌雄異花(同株の中に雄花と雌花)これは雄と雌を明確に分けている。
分けない両性花でも雌雄異熟なる変則システムがある。両性花(雄蕊と雌蕊が一つの花)で雄蕊が先に熟したり、雌蕊が先に熟したり、一つの花で受精しないというもの。
植物は進化の過程でたくさんの多様性を生み出す生存戦略を構築してきた。
さらに「自家不和合性」という仕組み、同一個体の受粉を拒絶するというもの。アブラナ、ナス科、サクラ属などの研究が進む。(植物生理学会QA2010)
そこまでして、遺伝子の多様性を造るシステムがあるとは・・・恐るべし。
因みに、ソメイヨシノは接ぎ木で日本中に増殖しているのが理由で、遺伝子が一様。てんぐ巣病という病気に弱い。
一気に広まるとソメイヨシノの危機となる。同一遺伝子のマイナス面。一方で、エネルギー少なく広がるのがプラス面。

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樹木は条件さえ整えば、動物より長寿。何千年も生きる動物はいない!
動物のような「抗体ベースの免疫システムがない」とか、言われるが、きっとなにか我々が知らない病原対策があると思う。
Wikipediaには『「植物細胞の全能性」が故に「自然史での動物の5大絶滅イベント時、6〜62%の地上動物の科が絶滅したが、植物の科に対しては「無視できる」影響』とある。
考えてみれば、5億年前に地上に上陸してから、幾多の環境変動に耐えてきた植物。
いざとなれば、接ぎ木(無性生殖)でも子孫を残せる植物の細胞は、確かに「全能」かもしれない。 まだまだ植物に学ぶことは多い!!

2020年5月31日[記] 6月4日[改]〜新型コロナウイルスの感染防止を考えながら〜


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