虫こぶ〜ゴール

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■ 植物と虫の摩訶不思議な世界 ■

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これは? 7月、愛知県新城市の愛知県民の森。 肉厚の花か? バナナのような果実か? 
触ってみるとスポンジのようにふにゃっとしている。
ネコの足・・・か?

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名前は「エゴノネコアシフシ」と言う。 樹木であるエゴノキ科エゴノキにネコノアシ(猫の足)のようなフシ(後述)があるのでこの名前。
「フシ」とは、漢字で「付子」。
通称:虫こぶ、別名:虫癭(ちゅうえい)、英語名:「gall(ゴール)」
この写真の場合、アブラムシの一種、エゴノネコアシ-アブラムシの卵がかえってエゴノキの芽から吸汁を始めると、その刺激で樹木側が反応してこんな形になる。
割って中を覗けばわかるが、一つ一つの房に複数のアブラムシがいる。ちょっと気持ち悪い(笑)

つまり、
ゴール(虫こぶ)とは虫の刺激を受け、植物側細胞が異常成長と分化が起こり形成される特異的な植物構造のこと。

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「ソヨゴメタマフシ」:2月、京都の大文字山。冬でも尾根筋にはソヨゴの樹がそよそよと。
モチノキ科の「ソヨゴ」の「メ(芽)」にある「タマ(球状)」の「フシ」。
ハエの一種、「ソヨゴタマバエ」が形成者。
ゴールの名前の付け方は、「植物名」+「部位」+「形状」+「フシ」となる。まあ、見た目で名前を付けるので覚えやすい。

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「コナラ メ イガ フシ」:10月、愛知県海上の森。
ブナ科「コナラ」+「メ」+「イガ(イガ)」+「フシ」。
ハチの一種、「ナライガタマバチ」が形成者。 このイガイガにどんな意味があるのか、どうやったらこれが出来るのか興味が尽きない。

ゴールの主な形成者はタマバエやタマバチ、アブラムシ、越冬や外的から身を守る為の卵や幼虫の住みか、内部を捕食するので食糧庫の役割がある。
形成者と植物は組み合わせで形態が決まるので、虫と植物の多様性を反映して、形や色、形成過程なども極めて高い多様性を示す。
「住みか」としても完全でなく、ここに二次寄生する(乗っ取り?)もの、コブや中の幼虫を捕食するものも居る。取り巻く環境は実に複雑。

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「クリ メ コブズイ フシ」:5月、越前 藤倉山。
新緑の季節に山でこれに出会った。太陽に新緑が映えて、このゴールはテカテカで綺麗な赤味を帯びて美しい。これも「芽(メ)」に付く。
でも、
1940年代に中国から入ってきたクリタマバチが形成者。ゴールで樹木が枯れることはないとうが、これはクリには害虫らしい。 中国から天敵のチュウゴクオナガコバチを輸入して対策している。
ゴールの形成には、「昆虫による植物ホルモン生産」があるとの論文(2014年茨木大学農学部 鈴木教授)もある。
産卵や摂食時に分泌する科学物質が形成に働いているというもの。
特定のアブラムシにはオーキシンやサイトカイニンなどが大量にあり、それが植物側を刺激する、刺激されて反応して肥大化していく。
そして、ゴールの形状は様々なのでそれぞれは違う物質が原因している、
木質化するものは、リグニンが多いが、これは病原菌のエリシターが形成の引き金を引くのでこれではないか… ちょっと難しくて眠たくなってきた(笑)

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「ブナ ハベリ タマ フシ」:8月、美濃 能郷白山の尾根筋。
暑い夏だった。ブナの森の尾根道を喘ぎ喘ぎ歩いていて、ふと休憩すると目の前にあった。
この真夏にあんな中に入って蒸れないのか(笑)
これは「葉縁(ハヘリ)」にあるって、ブナハベリタマバエの幼虫がなかにいる。
部位で名前が決まるなんて、なんと不思議な名前の付け方だろう。
「芽(メ)」につけば、上の二つと同様に。ブナメタマフシになるってことか?!

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「ヌルデ ミミ フシ」:10月、東三河ふるさと公園。もっとも有名な虫こぶと言ってよい。
形成者は「ヌルデシロアブラムシ」。これまた、奇妙な形。ミミね!? でも部位なないな。どこにでも形成されるのか・・・。
古くより人にも利用されてきた。植物は自らの身を守る為に虫達の消化に悪いタンニン(渋み)をここに貯めこむ。それを使う。
タンニンの化学反応で黒系の染め物に使えるらしい、これはその代表格。 明治や大正時代は輸出もしていた!
東大寺の正倉院には中近東から唐を経由してきた「ゴール」が薬物として保管されているそうだ。数千年前から中国、インド、欧州でも知られており、自然科学的に扱われるのは17世紀になってからのようだ。
皮をなめす・タンパク質を凝固させる作用から止血、消炎剤、解毒剤・優秀なインクの原材料、黒色系の染め物、マコモタケなど食用、お歯黒…利用方法も多様。(出典:「虫こぶ入門」薄葉重著:1995年)
生薬としては、五倍子(ごばいし)とも呼ぶ、元のコブの五倍に増えるからだそうだ。このゴールはあまり有名?なので、ゴールそのものを別名 五倍子と呼ぶ場合もある。

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丸っこい虫こぶといえば・・・ちょっと気持ち悪い
「ガマズミ ミ ケ フシ」:9月 三河 葦毛湿原。
仲間があまり見かけない虫こぶを教えてもらったと教えてくれた。
ガマズミの実(ミ)は秋に赤く色ずくが、ガマズミミケタマバエが寄生(若い実に産卵する)とこんな毛(ケ)が出来てくる。
幼虫は地面に落下した虫こぶで越冬して、翌年5月に羽化する。
冬に拾ってぬくぬくと越冬している幼虫を見てみたいような、見たくないような

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見た目にエグイものももちろんある。「ニッケイ ハミャク イボ フシ」5月、名古屋 大高緑地。
クスノキ科のヤブニッケイが大高緑地のこもれびの小径にたくさん自生している。その芽(メ)ではなく・・・葉脈(ハミャク)にイボのように連なる虫こぶ。
ニッケイトガリキジラミ(木のシラミ!?)が4月に新しい卵を産み付けて出来るらしい。お世辞にも美しくはない。

ゴールの研究は、まだまだ未解明な部分が多い。事実が分かれば、ゴール形成の真因が分かれば、輸入害虫に輸入天敵を充てるなんという策も取らなくて良くなる。
さらには、植物と昆虫のこの奇妙な関係は人に役立つ事実がたくさんある気がする。
科学や化学、バイオテクノロジーの発達でどんどん新しい事実が発見されて、医療分野、もしかしたら科学から工業分野への応用が出来ることを期待したい。学者任せでなく、自分でも少しはそのお役に立ちたいなぁと思う。

2019年7月20日 [記]  2022年12月18日[追記]
〜この記録は、冒頭の超有名な「エゴノネコアシフシ」を知らない話すと森林インストラクター諸先輩が寄ってたかって教えていただいた(笑)ことを契機に調べまとめた〜
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