南アルプス南部 遠山郷と断層地形

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■中央構造線など断層がもたらす地形を学ぶ■

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「ハイランドしらびそ」からの東の眺め、南アルプス南部の名峰が眼前に迫る。
断層に挟まれ、盛り上がった山地の高台にある。所属する「山の自然学クラブ」が主催する遠山郷の断層谷についての現地講座に参加した。
東側、左からピラミダルな荒川岳、真正面に兎岳、その右に真っ白な前聖岳、右側に光岳と南部のスターが勢ぞろい。
この辺りは、「付加体」が幾重にも折り重なり、東からの圧力で隆起して出来た山脈が累々と連なるエリア。南アルプスはその代表格。
手前の岩はチャートという主成分が二酸化ケイ素で放散虫が堆積して出来た岩石、プレートに乗って日本にぶち当たった。現在は隆起してこの高みにある。

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国土地理院のシームレス地形図で見るとこんな感じ。ハイランドしらびそは「A」地点
縦横の黒い線が断層、地質の違いは色分け。断層を挟んで地質が変る…地質が違いので「断層」が出来る・・・か
A地点には約2億年前のジュラ紀の堆積岩、隣接する肌色はチャート。
南アの主稜線は、兎岳から北(黄色)で1億5千万年、南側(緑色)で1億年未満の堆積岩の付加体であることが分かる。
太平洋に近づく程に年代が若くなり、飛んで静岡市街地辺りは約2千万年前となる。
左側に南北に走る赤線は「中央構造線」、九州から関東まで縦断する1000km以上の日本最長の断層。赤色は活断層らしい。
地質が違う付加体が億年単位でぐいぐい重なり、中央構造線を含めて多くの断層がたくさん観察できる興味深いエリア。

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中央構造線にはその境目が確認できる露頭がある。「B」地点
写真は中央が境目の中心線(黄色の棒)、右側が内帯(西側)とよばれる領家花崗岩、左側が外帯(東側)と呼ばれる三波川変成岩。
正直いって、違いは分からないが、その構成が違う地質が重なると、性質の違いでズレが生じやすく断層を形成しやすいとうことで、ズレると弱くなり、風雪や特に水が入り込む。
そんな事を頭に入れて眺めていると、なんとなく見えて来ます。来ません!(笑)・・・この境目が1000kmも続いているなんて、ことがすごい。
この地は、南北方向と東西方向にそれぞれ数mズレて、弱い部分に水が入り易くなっているらしく、確かに境目は粘土状になっている。
実際に自分の手で触って見ると想像以上に柔らかい。硬い岩石も摩擦と水分でこんな風になるのか。

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「B」地点には、断層で川の流れが変わった場所の確認も出来る。「小川の活断層地形」。
断層の横ずれで、写真の左側から右側に尾根がずれ落ちて、ずれ落ちた谷間を川が走る。
断層は地形に大きな影響を与える要因の一つであることが分かる。
日本列島がほぼ今の形態になったのは約1,100万年前、中央構造線レベルの大断層はもちろん断層というやつは、こうやって動いて地形を変化させ、
山からの雨が流れ込み、川が出来て谷を作り、中央構造線沿いに流れる上村川や遠山川もきっとそうやって出来たに違いない。

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上村川沿いには、流宮岩(ながれみやのいわ)と呼ばれる岩がある。「C」地点
2億年前のチャート混じりの堆積岩。
V字形に褶曲している!
外帯側にチャート層があるので、断層のズレで岩盤が崩れてここに落ちてきた。
まじかで手で触ることが出来る。
これだけ褶曲していると、どんな圧力がどれほどの時間をかけて曲がったのか・・・妄想が膨らみ。
とほうもない時間を眼前で見ることが出来る。

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遠山川の上流も歩いた。
新緑が眩しい季節、清流の癒しと澄んだ美しいさえずり、とても気持ちが良いが、一人であるいたので少々心細い。
遠山川は兎岳や聖岳を源流とする天竜川の支流、たぐいまれな急流と降水量の多さから谷が深く抉られている。
国土地理院地形図を3D(縦横比1.4)にして、兎岳方向から遠山川を眺めてみると、蛇行と抉れ度合い感覚的に掴める。
多くの支流が谷を作り、遠山川に注いでいることが良く分かる。

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この辺りは、易老渡(兎岳と光岳の登山口)、「D」地点
(たぶん)砂岩や礫岩などの堆積岩だが、肌色標記のチャート地質が混じる。
川床に目立つ赤い岩石が、きっと赤色チャートだろう。
赤色は酸化鉄(Fe2O3)によるもの、南アルプスの正式名称である赤石山地の名前は、赤石沢に露出する赤色チャート。
遠山川でも見ることが出来る。赤色というかレンガ色は目立つ。河原に転がるこんな大きなチャート岩石は初めて見た。
美しいものもあるようで、昔は盗掘にあったそうだ。

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「E」地点
雨で谷を削り、石や砂となり川に流れ込む。ついでに河畔の樹木も押し出される。
急流が故に土砂はとどまることなく下流に流されていく。砂岩や泥岩の付加体(地質図黄色)は砂岩や泥岩が主体。
ここに写真はないが、遠山川が上村川が出合う地点(遠山郷)は流れがゆるやかになるせいか、土砂が溜まっていた。
浚渫する大規模なパワーショベルや工場があって土砂が小さなピラミッドのように山積されている、建築石材として都市へ送る。
都会のビル建築などに利用されるのだそうだ。
山の恩恵は、水だけではない。
億年前に出来て堆積岩がこんな風に巡り巡って人に活用されている。
自分の眼でみて初めて分かる現実。

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最後のポイントは「F」地点下栗の里。標高1,000mの斜面にある集落。
こんな山の中に集落があるのかと驚く。 観光名所にもなっていて遠山郷のポスターの一番人気。
なだらか斜面で陽当りが良く、最大のポイントは井戸から水が出るそうだ。
石灰岩(青色)やチャート(肌色)と断層が交錯するエリア。断層が故に地滑り地形で緩斜面が出来、水の通り道が出来たのだろう・・・と想像する。

眼下に流れるのは遠山川、その先には源流域である兎岳や聖岳を遥かに望む。
まだ冠雪をいただく美しい南アルプスの峰々。
断層と地質と人の関わりに思いを馳せるには、もってこいの場所だった。

2021年4月30日−5月1日訪問 5月4日 <記>

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