葦毛湿原の成立ち

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「葦毛湿原」・・・「いもう湿原」と読む。
東海道が出来る前、源頼朝が京都に向かう途中、厳しい山越えで疲れて死んでしまった葦毛(芦毛=あしげ→灰色の毛)の愛馬を葬ったと事が由来。

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三河の東、浜名湖の西、弓張山地の西麓にある。世界的に見ても特異な成立ちの湿原。(豊橋市「ええじゃないか豊橋」HP)らしい。
その成立ちが実に知的興奮を覚える湿地であることを歩いて体感!

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成立ちは、地質と地形がポイント。
黒く囲ってある所が葦毛湿原のある場所だが、灰色とオレンジの横縞が交互している。
オレンジ色が中期ジュラ紀(1億5,000万年前後)のチャート、放散虫というプランクトンの死骸が固まった堅い堅い堆積岩
灰色が後期ジュラ紀の混在岩と呼ばれる堆積岩、チャートや砂岩などが混在している。たぶんこれまた堅い。
灰色の北側には段々に横縞が重なっている。
プレートが大陸に沈み込む際に上澄みをがはがされ大陸に「付加」した付加体と呼ばれるもので、プレート面がそがれるので帯状に北に連なる。
今も太平洋側に付加は進んでいるので、横縞は内陸側ほど、北に行くほどに時代が若くなる。
緑色は石炭紀の玄武岩(火山岩)、水色は白亜紀〜古第三期の泥質片岩・・・古第三期初期だと6,500億年前になる。 オレンジと水色に約1億年弱の差!(とても乱暴な計算)
水色より北西は1本の黒線を境に赤系統になる。1本の線は、日本最大の断層である「中央構造線」なので、それより北西側の説明はまたいつか(笑)

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葦毛湿原をクローズアップして3Dにしてみる。地図は北東側からの視点にしているので、遠州灘が上になる。
オレンジが堅いチャート、灰色がチャートを含む混在岩・・・湿原はチャートの帯上にあり、その上に湿地であると予想できる。
湿原は水は豊富だが「貧栄養層」に覆われているが故に独特の植物が自生する。
普通に考えれば、この地は三河地方の低山帯なので常緑広葉樹が広がるはず。
樹木が朽ちて年月がたてば、腐葉土となり、豊かな土壌に恵まれるはずだが、貧栄養の湿地帯のまま・・・
理由は「湿原が維持されれいるメカニズムはxxx、豪雨による表土と植物の除去」「表土が時々除去されるので泥炭が堆積しない」(日本の植生 小泉武栄)だという。
なるほど、この湿原の基盤はチャートベース、更に三方を山に囲まれ、ひとたび豪雨とならば山々から水がここに集中する。
水は堅いチャートに浸透せず、地表を流れ一気に湿原に流れ込む。
表面の土壌だけでなく植物も剥ぎ取り、チャートが露出して、また貧栄養地となり、窪地は湿地性の植物が成長する。

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それを分かった上で湿原を眺めれば、湿原内には小さな石がバラバラとある。
稜線へ登ってみる。大きな岩や小さな石が斜面を覆っている場所をなんども横切る。
岩がゴロゴロしている斜面には大きな樹木はない。豪雨で流されるか。
岩石がチャートか混在石層の砂岩かは分からないが、腐葉土ではなく岩が覆っている斜面が多い。基盤はチャートなのだろうか…
これが滑って流されて、湿原に流れ込むのか・・・とか考えると実に興味深い。

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でも斜面は見たところそんなに急角度ではない。
国土地理の地図で起点と終点を結べば、断面図を作れる。こういうのはマニアックで好き。
現場で斜度を図るのも面白いのだが、デジタルに図面上で長い距離を測りたかった。
結果は斜度はたったの22度! 地面が安定するという「安息角30度」より緩やかだった。
この角度で豪雨が降ったからといって、斜面が流れるだろうか??という疑問と同時に、流されるとすれば滑るチャート基盤恐るべし!
歩いた前日の夜は激しい雨だった、当日 アプローチは川となり湿地内も水が滔々と流れていたが、表層を流すとすればそんな雨ではないだろう。
何百年に一回か!? 想像も出来ないような豪雨が続き時代があるか!?そうに違いない。

湧水、基盤がチャートや粘土層、ゆるやかな平坦地などの条件が揃い、このメカニズムが働く湿原は東海地方には多数ある。
このような湿地の植物は「東海丘陵要素植物群」または「東海丘陵湧水湿地群」と呼ばれていて、シデコブシ・ヒトツバダゴなど樹木から湿地性ではシラタマホシクサやミカワバイケイソウなど、この地にしか自生していない植物が15種類ほどある。
歩いた日はシラタマホシクサが花盛りで多くの観察者が来ていた。
グリーンセイバー仲間と一緒に、植物観察だけなく、地質や地形についも語り合っていたが、そんなマニアックな会話は我々だけだろうか・・・(笑)
そんな成立ちがあって、この湿地があること、そしてこの美しく可愛い湿地性植物があることを知れば、葦毛湿原歩きは更に楽しくなる。
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2022年9月11日[記]

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