バイケイソウは氷河期の生き残りか?

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鈴鹿山脈の御池岳、コグルミ谷を抜けて山頂に向かう谷筋にこんな景色が広がる。
まだブナは芽吹いておらず、空は広く、スプリングエフェメラルが太陽光を求めて咲いているシーズン
この葉っぱも太陽光を求めて葉っぱを大きく展開しているに違いない。元気で勢いがある。

何度か歩いているが、いつもGWで、おいしそうな葉っぱが出始めた頃なので、なにか不明だった。
植物の名前は「バイケイソウ」単子葉類ユリ目シュロソウ科シュロソウ属
日本では北海道、本州、四国、九州の山地から亜高山帯にかけての林内や湿った草地に分布する。
たしかにこのあたりは標高1000mで冷温帯に近く谷筋で涼しい。
ただ、
"おいしそう"などと言ったが・・・
「全草に有毒アルカロイドを含有し,加熱しても毒は消えない。(厚生労働省HP)」らしい。

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三河の葦毛(いもう)湿原にある、バイケイソウの花が咲いている群落。5月中旬、まだ咲き始めか。
弓張山地の麓にある葦毛湿原を少し上った山腹の浅い谷沿いにある。
標高でいえば100m前後か
風が吹いて涼し気な谷に群落があった。
山渓ハンディ図鑑「山に咲く花」の写真もここ。それなりに有名なのかも知れない。
「茎は高さ0.6〜1.5メートル、葉は互生し、広楕円計で長さ20〜30センチ、基部は茎を抱く」
「茎頂に大型の円錐花序を立て、緑白色で直径約2センチの花を多数つける。両性花と下部に雄花を付ける」なるほど、その通り。
“牛乳を雑巾に含ませたような”と書いているネット記事もあったが、確かに微妙なにおいだった(笑)
当然、花の匂いにも意味があるので、いつか調べよう。

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「コバイケイソウ」バイケイソウの近似種。
木曽駒にある千畳敷カール、標高2300m。夏は高山植物がたくさん咲い美しい花園になる。写真は7月末。
成り年だったのか、壮観な景色だった。
バイケイソウより小ぶり、花序は太い! 花が白い! 
茎頂のまっすぐ伸びるのは両性花で、左右は装飾花で豪華にみせて虫を呼び寄せるらしい(ご一緒した植物園園長さん談)
なにより、勉強になったのは、この植物は氷河時代の生き残りで、気候が温かなるにつて、垂直方向に逃げて現在この地にいるという。
高山植物は生き残りが多い。
この千畳敷カールは2万年前の氷河が削ったカール、そんな時代に下界にいた植物が暑さにおわれてこの地で生き残っていると思えば感慨深い。

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「ミカワバイケイソウ」 コバイケイソウの変種。これも緩い斜面に広がる葦毛湿原の最上部に群落がある。
長野と愛知の特定の場所に自生している。
ちょっと葉っぱがほそく、花が小型か? 雄蕊(おしべ)が長い。茎頂の両性花の密度が濃くない気がする。
なにより、これがどうして標高の低い(湿原は標高70m)場所にあるのか。

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先ほどのコバイケイソウは垂直方向に逃げたが、このミカワバイケイソウは水平方向で適地を見つけて生き延びているという。
たしかに、谷筋で風が良く通り、夏は涼し気な場所に咲く。
それぞれに、それぞれの環境に適応して、現在まで種をつないでいる。
場所を変えて、環境に適応していく植物はさすがだと思う反面、
これから温暖化が仮に進むとすれば、コバイケイソウが垂直に動くには限界があり、ミカワバイケイソウの生存可能範囲も狭まってしまうかもしれない。
ダーウインだったか、現存する動物も植物は進化してきたのではない、環境に対して変化する適応力があった種なのだと言っていたな。
まさに、それを思い出させる3種のバイケイソウ属の生存戦略。

2023年7月9日[記]

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