上高地から涸沢 森と樹木

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■初秋の涸沢まで歩いて森を楽しむ■

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涸沢の紅葉を見に行こうと7年振りに歩く。
徳沢に泊まり、翌日に登山と森を楽しむ。山の成り立ちや植生がちょっとは分かってきたので、歩いていても楽しい。

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そして、この7年でグーグルマップ3Dも見栄えが更によくなった! ありがとう、グーグルさん! 
明神、徳沢、横尾、本谷、涸沢、そしてカールまでを鳥観図的に見てみた。分かり易い。
明神ー徳沢ー横尾がだいたい8km、2時間、横尾ー本谷が3.8kmで1時間、本谷ー涸沢カールが2.4kmで2時間程度の距離と時間感覚。

そもそも、こんな山岳地帯に、上高地という広い谷がどうやって出来たか・・・大正池から横尾まで距離15Km、標高差はたったの90mの平坦な土地。
約1万2千年前に焼岳辺りの火山が噴火して堰き止め、「上高地湖」なる湖が出来た。そこに山からの土砂が溜まり、平坦な湖底となった。それがベース。 

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横尾までは、北へ梓川沿いを遡るコース。勾配率が1%未満という平らさ。 
両側は急峻な山から川が流入しているので、大雨になると相当の水量が流れ込むだろう。
この梓川は、湖底だったが故か河原が広い。流れ込んだ水は流路を頻繁に変えて、植物はさぞや生きににくい。

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そんな環境の中、上高地で一番有名なのがこの樹木。
ケショウヤナギ「ヤナギ目ヤナギ科ヤナギ属」、北海道日高地方と長野上高地周辺などに自生。
春は化粧をしたように粉を吹き、冬は小枝が赤く染まる。美しい落葉高木。
川辺で礫による攪乱が起きるところで生きている。逞しい。
ほかの木では生息できない地を選び、競合がない厳しい場所を選んだ。きっと、生長が早く、子孫を残せるのだろう。
丸い樹形が多いので、河原で丸いとたいていこの樹。見分けやすい。河の周辺で生きる樹木を「河畔林」その中、川辺のものを「川辺林」と呼ぶ。

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標高は1,500mを超え、いわゆる冷温帯。
梓川沿いには、「湿性林」と呼ばれる樹木が目立つ。これも「河畔林」の一種。 
お気に入りは「カツラ」! 30mにもなる落葉広葉樹。
ユキノシタ目カツラ科カツラ属「カツラ」、北海道から本州の冷温帯の渓流に自生。北海道では街中でも見ることができる。
かつては北半球全域に広がっていたが、現在は中国・朝鮮と日本にしかない。
なんといっても、このハート型の葉っぱが可愛い。秋になり黄葉が始まると綿菓子のような甘い香りがする。これがまた良い。
この辺りには「ヒロハカツラ」というちょっと幅広な仲間もいる。 

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サワグルミ「クルミ目クルミ科サワグルミ属」、樹形は縦長で、これも30mになる落葉広葉樹。
冷温帯の山地の渓谷に見られる代表種。これも湿性林。
見上げると、なにやら小さな葉っぱが規則的になっている。奇数波状複葉で、小葉は4〜10対、長さ5〜12cm、なるほど小さい。
黄葉は地味だが、秋を渋〜〜〜く演出してくれる。

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徳沢園辺りは、昔は牧場が出来るほどの広さ。東から徳沢が注ぎ込み、河原に土砂が堆積して出来たに違いない。今はキャンプ場。
目立つのがハルニレ「イラクサ目ニレ科ニレ属」。30mになる落葉広葉樹。
冷温帯に自生して、サワグルミなどと林を造る。
春に花を咲かせるのはハルニレは北方系、日本にはアキニレがありこれは南方系。ニレは樹皮をはがすとヌルヌルした樹液(=滑れ:ぬれ)が転化したらしい。
樹形はサクラに似ているが、樹皮が縦に裂け、葉が左右非対称た特徴。

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横尾を過ぎると、山の世界に入る。
これから、標高差700m、距離で6.3km。ちょっと気合が入るポイント。
横尾をからは前穂高と慶応尾根?が見える。涸沢カールへは、ぐるっと回ってあの裏側へ回ることになる。
これからは、高度も環境も変化するので植生も変わってくる。

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横尾までは平坦な道で、時々山側に入る時がある。そんな時は、針葉樹 ウラジロモミやシラビソの森。 
森の雰囲気も明るい落葉樹、常緑の針葉樹は濃い緑が故に深遠な雰囲気の森となる。
写真、横尾を過ぎて山に入った頃のウラジロモミ「マツ目マツ科モミ属」、高木の常緑針葉樹。
樹皮はやや網目状に裂け、モミに比べるとやや赤みを帯びる。 冷温帯と亜高山帯に自生。標高が少し高くなるとシラビソ、オオシラビソの森樹林帯へと変わる。

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屏風岩を見え始めると、時々緩やかなな斜面をトラバースする。
その辺りに出てくるのがブナ「ブナ目ブナ科ブナ属」、冷温帯の代表樹種・・・だが上高地ではあまりみかけない。
地衣類が付いた幹、灰褐色で平滑。写真では、たぶん奥の樹木。
梓川沿いは氾濫するし、両側の山は急斜面、その地形はブナの好みでない。安息角の30度辺りが好きなはず。

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本谷橋を超えると、急登になる。 喘いで見上げると、白っぽい赤茶っぽくて樹皮が紙状にはがれ、黄葉した樹木が印象的な風景になる。
ダケカンバ「ブナ目カバノキ科カバノキ属」、冷温帯・亜高山帯、落葉高木。
山の斜面に真っ先に伸びてくるフロンティア植物で、自ずと太陽が良く当たる明るい場所に多い。
風雪に耐えているせいか、曲がりくねったやつが多い。涸沢の黄色はだいぶ、この樹木で覆われているのはないかと。
シラカバは仲間だが、標高の低い場所に生える。これもフロンティア植物。

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本谷橋から急登をひとしきり登ると、横尾本谷を大きく望める場所がある。大きな岩があって、休憩にもってこい。
横尾氷期(6万年前)にカールで削られた谷、北アルプスの核心部に来たっと思わせる豪快な風景。
ちょうど南へ登山道も向きを変えて、涸沢へ入る辺り。標高にして約2,000m。
写真は手前右がダケカンバ、左に続く常緑樹がシラビソだろうか・・・
豪快な景色も良いが、緑が黄色に染まり始める谷もまた美しい。

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涸沢谷を登る。ダケカンバ以外でも、綺麗に黄葉している樹木もあった。
ミネカエデ「ムクロジ目ムクロジ科カエデ属」、亜高山帯のカエデ。コミネカエデより幅広で株立ち樹形の低木が多い。
5裂から7裂の5〜10cmの葉っぱ。黄色が鮮やかで、気持ちが癒される。
紅葉しているのは、オガラバナ「ムクロジ目ムクロジ科カエデ属」、これも亜高山帯のカエデ、ダケカンバやコメツガと混生。
不揃いに5裂、葉身は8〜15cmと大型。
赤橙色の紅葉が多いらしいが、今年はちょっと色好きが悪いかもしれない。

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終着の涸沢カールが見えてきた! 前泊の徳沢から4時間、途中で登山靴のソールも?れてしまい(泣)、応急処置して登ってきた。
奥がモレーン。涸沢氷河(2万年前)が削った岩屑が溜まった盛り上がった場所。あの上が鍋底、ヒュッテが立っている。

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着いた! モレーンの上、カールの底! 標高2,309m!
左側に奥穂高岳(3,190m)、中央に涸沢岳(3,103m)、右に前穂高岳(3,106m)、岩の殿堂。クライマー憧れの穂高連峰。
紅葉は…タイミングが少し遅かったか、今年は条件が悪かったか…私が知っている限りの美しい紅葉には及ばなかったが、やはり美しい。
赤いのは、涸沢カールで最も有名な樹木、ナナカマド「バラ目バラ科ナナカマド属」、冷温帯から亜高山帯に自生する落葉樹。
"大変燃えにくく、7度竃(かまど)にくべても燃え残る"という由来が有名。
北海道では街路樹になるらしい、高木になる。ただ、さすがにここの厳しい環境では大きくなれない。
特徴は、奇数波状複葉、真っ赤な実、なにより深紅の紅葉が美しい。
穂高の高峰、青い空(今日は曇り)、黄葉、そしてなによりこのナナカマドの紅葉・・・これが日本一の紅葉と言われる由縁。
夏の登山シーズンより、この秋の紅葉シーズンがこの山のハイシーズン。わかるわかる。
今日も来てよかった。 また、いつか晴れた日に来よう!

2020年10月10日 [記]


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